連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第27話「花と自転車」

居間

浦木「なかなか結構な お住まいだね。」

茂「そうでもない。」

浦木「2階は どうなっとる? ちょっと拝見。」

布美枝「あっ あの…。 上は 散らかっとりますけん…。」

浦木「いやいや お構いなく。」

茂「2階は 4畳半と3畳。 何も珍しいもんはない。」

浦木「ふ~ん。」

茂「おい イタチ。 俺は 締め切りで忙しいんだ。 急ぐ 用じゃないなら 出直してくれ。」

中森恒夫「あの~…。」

茂「この人 どちらさん?」

浦木「おお。 貸本漫画家の中森恒夫さんだ。 実は この御仁の事で 頼みたい事があるんだが。 中森さんは 大阪の漫画界で 活躍しておられたんだが 汽車の中でも話したとおり 大阪の業界は 壊滅的だ。 そこで 新規まき直しを図ろうと 妻子を 実家に戻し 単身 東京に出てきたという訳だ。」

中森「家族がおっては とても やっていけません。 日々 貧乏との闘いです …実に厳しいもんです。」

茂「分かります…。」

浦木「分かるだろ。 そこでだ。 中森さんを この家に 置いてもらえないか?」

茂「はあ~?」

布美枝「ええ?!」

茂「バカな事 言うな! うちは アパートでも 下宿屋でもないぞ!」

浦木「まあ 聞け。 『手頃な賃間はないか』と 中森さんから 相談を受けたんだが どこも 敷金だの 礼金だの ようけ取るだろう?」

茂「ああ。 あんなものは 不動産屋を もうけさせるためのムダ金だ。 知り合い同士 家賃のやり取りだけすれば ムダな金は 使わんで済む。」

茂「こんな小さい家の どこを貸すって言うんだよ。」

布美枝「小さな家ですけん。」

浦木「夫婦二人なら この1階で 十分 間に合うだろう。 2階 貸てやってくれ。」

茂「えっ? うちは 玄関も流しも 便所も1つで 人に貸すような作りじゃない。」

布美枝「何でも 1つですけん。」

浦木「ああ 構わんよ。 ねえ 中森さん。」

中森「はい? ああ… もちろん。」

茂「幾らなんでも… こげな事に なったばかりで…。」

浦木「まあ 新婚家庭には 不粋な お願いだろうが…。 同業者が困っとるんだぞ 見捨てるのか? 『明日は我が身』という 言葉もあるぞ。 タダでと言う訳じゃなし。 中森さんには 住む所ができる。 お前には 毎月 決まった家賃が入る。 両方 得する話じゃないか。」

布美枝「でも ろくに お世話もできませんし…。」

浦木「賄いは いりませんよ。 奥さんの手を 煩わせる事は ありません。 ねえ 中森さん。」

中森「はい。 部屋さえ貸して頂ければ それで…。」

茂「お前 何か たくらんでおるだろう。」

浦木「まさか。 俺は 純粋な 親切心でやってるんだ。 原稿料は いつ入るか分からんが 家賃は 決まって入る 固定収入だぞ。 どうだ。 お前にとっても いい話だろ? ん?」

茂「う~ん…。」

(ちゃぶだいを叩く音)

茂「よし。 貸そう!」

布美枝「ええっ!」

中森「ありがとうございます。 ありがとうございます。」

<スタートしたばかりの新婚家庭に えたいの知れない間借り人を 置くなんて…。 茂は何を考えているのか 布美枝には さっぱり分かりませんでした>

布美枝「これ どげしよう。 おばばの居場所も なくなってしまった…。 村井さん 一体 どういうつもりなんかね?」

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