茂「値切られるだけなら まだしも ヒット作を描かんと干されます。」
中森「干されますかあ…。」
茂「大手出版が続々と漫画雑誌を 出してきて 貸本漫画は 劣勢に 立たされとりますからなあ! ああ! こうしては おられん。 締め切りを守らん者(もん)も干されます。 描き続けなければ どうにもならんですよ。 ハハハハ!」
布美枝「あ あの…。」
中森「あ はい?」
布美枝「貸本漫画と 雑誌に載っとる漫画は 何が違うんでしょうか?」
中森「奥さん。 一流雑誌に載る漫画と 私らの貸本漫画とでは… 原稿料が まるで違うのです!」
布美枝「でも 一冊描いたら 3万円だと…。」
中森「いや~ まあまあ そういう時も ありましたが 近頃はいけません。 それに なかなか数は 描けないもんです。 漫画は 骨の折れる 仕事ですから。 ハハハハ…。 奥さん? お水を…。」
布美枝「あ…。」
<茂の暮らしが 思っていた以上に 厳しいものだという事が 布美枝にも はっきり分かってきました>
布美枝「家から持ってきた分と 頂いた家賃を足して…。 節約すれば 当分いけるわ。」
(ペンを走らせる音)
布美枝「毎日毎日 朝まで お仕事で 話も できん…。 あんなに働いとるのに 何で お金に ならんのだろう?」
玄関前
布美枝「あ… お出かけですか?」
茂「あ 水道橋の出版社まで 原稿 届けに行ってきます。」
布美枝「そしたら 漫画 出来上がったんですか?」
茂「はい。 今日は金が入りますよ!」
布美枝「お疲れさまでした!」
茂「行ってきます。」
布美枝「行ってらっしゃい! ああ… こんなとこに。」
居間
布美枝「♬『埴生の宿も わが宿 玉の装』 たまには空気 入れ替えんと。 うん! うわぁ…。」
仕事部屋
布美枝「これは ちょっと 片づけんといけんわ…!」