連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第40話「消えた紙芝居」

音松「墓地ですねえ。」

布美枝「はい。 うちの人 墓巡りが 趣味なんです。」

音松「うん。」

布美枝「『じ~っと見とると 墓の主と 心が通じあう』って 言うんですよ。」

音松「なるほど 『墓場鬼太郎』の 作者らしいですな。」

(2人の笑い声)

布美枝「あれ?」

(小鳥の鳴き声)

美智子「あら。 驚いたあ。 こんな所で… お参り?」

布美枝「私は 観光案内というか…。」

美智子「え?」

布美枝「どなたかの…?」

美智子「早く戻らないと おばあちゃんが これだ。」

布美枝「そうですね。」

美智子「それじゃ。」

音松「どうも。」

美智子「ん? あっ! 昨日 うちの店に来てた方?」

回想

美智子「お客さん うち 初めてですか?」

回想終了

美位子「確か 『墓場鬼太郎』全巻 立ち読みしていった…。」

音松「奥さん あちらに いいお墓 ありましたよ。」

布美枝「ああ そうですか? それじゃ…。」

<こみち書房の美智子にも 何か 事情が ありそうです>

音松「私 水木さんは 漫画でも きっと 成功すると思ってました。 受けないものでも 必ず どこかに 光るものがありましたからねえ。」

布美枝「そうですか…。 ゆうべ うちの人が 言っとりました。 『音松さんに 叱られたり 褒められたりしながら お尻叩かれて 何千枚 何万枚と 紙芝居を描いたけん 今 漫画を描いて やっていけるんだ』って。」

音松「そうですか。 水木さんが そんな事を。」

布美枝「けど 残念です。 もう 残ってないんですよね うちの人が描いた紙芝居…。」

音松「はあ…。 紙芝居は 手書きの一点物。 現品限りです。 結局は 何もかも 消えていく運命です。 アハハハ…。 ここは 本当に いい所だ。 こういう所で また 紙芝居 やりたいもんだなあ。 私らが 拍子木を打ちますとね なけなしの小遣い握りしめた 子供達が わ~っと 走り寄ってきたもんです。」

音松「子供の目は 怖いですよ~。 紙芝居屋が 下手だと バカにして近寄ってきません。 こちらは 毎日が 真剣勝負だ。 ハッハ…。 面白かったなあ。 金は さっぱり もうからなかったけど 面白い商売でした…。 ここは いい。 本当に いい所だ。」

布美枝「はい…。」

<布美枝と音松親方が 深大寺の 夕焼けを眺めていた その頃…>

水木家

玄関

茂「『音松親方に気をつけろ』とは どういう意味だ?!」

浦木「待て ゲゲ。 俺は 親友のよしみで 忠告しに来てやったんだぞ。」

茂「音松さんの事 何も知らんくせに。」

浦木「知っとるよ。 神戸の水木壮で 時折 顔を合わせとった。」

茂「顔見知りってだけじゃないか。」

浦木「俺の情報網に 引っかかってきた。 借金の山で 身動きが取れなくった音松が 東京の知り合いを回って 借金を申し込んで歩いとる。 落ち目の人間に 金を貸す奴なんか おらんから 近いうち お前んとこまで やって来るかもしれんぞ。」

茂「俺だってな 人に貸す金なんか ない。」

浦木「けど お前 意外と お人よしなとこが あるけんな。 なけなしの金を むしり取られては 気の毒だから 教えに来たんだ。」

茂「もう ええ! 帰れ 帰れ!」

浦木「待て 待て! あ~ ゲゲ 話が もう一つある!」

茂「まだ言うか!」

浦木「音松の話じゃない 富田だ 富田。」

茂「え?」

浦木「お前 『鬼太郎』の原稿料 受け取ったか?」

茂「…いや。」

浦木「やっぱりな。 うかうかしてると このまま 踏み倒されるぞ!」

茂「何?!」

浦木「あの おやじ 金を払う気は なさそうだ。」

茂「どういう事だ?!」

浦木「あ~ 待て! 苦しい! 離せ! ばか力だなあ もう。 俺の情報網によるとだ。 お前に払う原稿料まで 他の事に つぎ込んどる。 はやりの 新書版漫画に 手を出したんだ。」

茂「それで?」

浦木「大失敗の大赤字 返品の山だそうだ。 『鬼太郎』の売り上げを そっくり 穴埋めに使っても まだ足りん。」

茂「そげな事は聞いとらんぞ。 俺には 『『少年戦記の会』のせいで 金詰りになった』と言っとった。」

浦木「あの狸おやじが そう簡単に しっぽを出すもんか お前 うまくやらんと このまま金を取り損なうぞ。 そこでだ。 俺が作戦参謀に なってやろうじゃないの。 取り分は 3割。 成功報酬でええぞ。 どうだ? おい ゲゲ? ん?」

茂「そこ どけ!」

浦木「お~?!」

茂「こげしちゃおられん!」

浦木「お~い。 熱くなっとったら 取るもんも取れんぞ~ 待て~!」

茂「富田~!」

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