茂「ほう そげか。 あの子が来とったか?」
布美枝「さっきまで 待っとったんですけど。 あ! 連絡先 聞いておきました。」
茂「うん。 パチンコ屋の住み込みとは ええ事 考えたな。 これなら 食うには困らん。」
布美枝「ほんとですね。」
茂「こっちも 出版のめどが立ったぞ。」
布美枝「売り込み うまくいったんですか?」
茂「うん。」
布美枝「よかったですね。 ほんなら 『河童の三平』 出せるんですか? 私も助かりました。 これで 財政破綻 食い止められます。 あ! 本 どこの出版から 出るんですか?」
茂「富田書房。」
布美枝「え… 富田書房って あの?」
茂「それで 原稿料なんだが…。 これで もらった。」
布美枝「約束手形って すぐに お金に換えられんですか?」
茂「ここ見てみろ。 支払期日と書いてあるだろう。」
布美枝「はい。」
茂「金が入るのは この日 3か月後だ。」
布美枝「3か月後?」
茂「現金の都合がつかんと 言っとったけん しかたない。 まあ ものは考えようだぞ。 もし このまま出版ができんだったら 3か月どころか 1年 経っても 金にはならん。」
布美枝「はい。」
茂「シリーズで8冊 出すと 約束したけん いったん 回り出せば 金は入ってくる。」
布美枝「そげですね。 本が出るんですけん ええ事ですよね。」
茂「他に道はない。 厳しいが やり抜くしかないな。」
布美枝「はい。」
仕事部屋
茂「はあ~。 ああは言ったものの 富田のおやじ ほんとに 大丈夫かなあ。」
回想
富田「これを シリーズで出させてもらえば うちも なんとか立ち直れる。 これで 2人そろって はい上がろうな! うん!」
茂「あ…。」
回想終了
茂「富田は 信用できんが 他に出す当てもないし。 描き続ければ なんとかなる。」
居間
布美枝「はあ~ どげしよう。 3か月も お金が入らんなんて。」
回想
布美枝「水木洋子? これ うちの人の漫画じゃない…。」
茂「食っていくための作戦だよ。 覆面さえ替えれば 何度でも 何度でも戦える。」
春田「何も やってないの? のんきだねえ。 うちの かみさんなんかさ 毎日 働いてるよ 赤ん坊 背負って。」
回想終了
布美枝「節約だけに努めとっても もう どうにもならんな。」
<既に あちこちへの支払いが 滞り始めていました>
布美枝「私も なんとかせんといけん。」
<布美枝は 外に働きに出る事を 考え始めたのです>