玄関
布美枝「ただいま戻りました~!」
茂「お お母ちゃんが帰ってきたぞ。」
布美枝「藍子 ぐずりませんでした?」
茂「ああ 機嫌よくしとったぞ。 それより 早こと上がれ。 ひな祭りの用意ができとるぞ。」
布美枝「え?」
茂「うん。 な?」
居間
茂「ちょっこし 藍子 頼む。」
布美枝「はい。 …よいしょ。」
茂「ほれ!」
布美枝「ああ… これ!」
茂「どげだ。 立派なもんだろう。」
布美枝「私が 折った 折り紙?」
茂「お内裏様だけでは 寂しいけん 七段飾りにしておいた。」
布美枝「うわ~ 豪華ですね!」
茂「ああ 初節句だけん デラックスに祝わんと!」
布美枝「うん。」
布美枝「♬『あかりをつけましょ ぼんぼりに』 あ 火が入った。 お父ちゃん 上手ですねえ。」
茂「当たり前だ 漫画家だけんなあ。」
布美枝「そうですね。」
茂「OK いいだろう。 灯 出来たぞ。 さて 何から食うか…。」
布美枝「じゃ まず お白酒 いただきましょうか?」
茂「よし。 ほれ。」
布美枝「はい。」
茂「俺も飲むかな。 と 白酒を飲んだつもり。」
布美枝「うん おいしいですね。」
茂「ああ これは すきっ腹に効くなあ。 と 白酒で酔ったつもり。」
布美枝「フフッ。 ほら お父ちゃん 酔っ払っちゃいましたよ。 どげしましょう。」
茂「酒は これぐらいにして 次は… ひしもちを食うか。」
布美枝「ひしもちは もう少し飾っておきましょうよ。」
茂「と 叱るお母ちゃんの目を盗んで 一口 ぱくっと食べたつもり。 うっ あっ…。」
布美枝「ウフフ お父ちゃん?」
茂「慌てて食べたんで ひしもちが のどに詰まった。 ああ…。」
布美枝「アハハ… お父ちゃんは 食いしん坊ですねえ。」
(藍子の笑い声)
茂「お 藍子も笑っとるぞ!」
<ひな飾りも ごちそうも 絵に描いたものしか ありませんでした。 初節句のお祝いまで 生活費に 消えてしまった悲しさを 布美枝は そっと 胸にしまいました>