水木家
2階
布美枝「お父ちゃん 遅いねえ。」
(雷雨の音)
布美枝「戌井さんとこに 泊まるのかな…。」
<その夜 深夜を過ぎても 茂は 戻ってきませんでした>
玄関
布美枝「お父ちゃん どげしたの!」
茂「うん…。」
布美枝「心配しとったのよ。 戌井さんとこ 泊めてもらったんですか?」
茂「いや… 道に迷っとった。」
布美枝「え?!」
茂「戌井さんちを出て 雨も降っとるし 多摩霊園を通り抜けて 近道しようと思ったんだが…。 出口が ないんだ。」
布美枝「どういう事ですか?」
茂「分からん。 何度も通り抜けとるのに ゆうべは 走っても 走っても 墓場から外に出られんのだ。 真っ暗~い迷路の中を 走っとるようだった。 日が昇って ようやく出口が見えた。」
布美枝「お風呂 入れましょうか?」
茂「いや 寝る…。 疲れた。 あ これ… 原稿料 これだけだ。」
<何だか 嫌な気持ちがしました。 走っても 走っても 暗闇を 抜ける事のできない自転車。 それは 出口なしの 貧しさの中で あえぐ 自分達の姿のように思えたのです>
すずらん商店街
子供達♬『空をこえて ラララ 星のかなた ゆくぞ アトム ジェットのかぎり 心やさしい ラララ』
<この年の1月 テレビアニメの 『鉄腕アトム』の放送が始まり 子供達を 夢中にさせていました>