はるこ「よかったあ。 どうしても この写真 持っていきたかったんです。」
浦木「持っていくって どこに?」
はるこ「今から 大手の雑誌社に売り込みに 行くんです。」
浦木「おう。」
はるこ「少女漫画も 雑誌の時代になりましたから。」
浦木「じゃあ その写真は 逆効果だ。 あなたの横に 一生 売れない 貧乏漫画家が写っとります。」
はるこ「そういう言い方 ないんじゃないかな!」
浦木「え?」
はるこ「水木先生は 困難にもくじけず 描き続ける 不屈の漫画家ですよ。 私は その不屈の精神を お守りにしたいんです。」
浦木「あれ… はるこさん あなた もしや ゲゲの事を。」
はるこ「え?」
浦木「魅力的だ なんぞと 思ってるんでは ないでしょうねえ。」
はるこ「思ってますよ。 先生 魅力ありますもん。」
浦木「なんと! もしや あなた 恋をしてるんでは…(工事音)」
はるこ「え? 何ですか?」
浦木「ですから はるこさん あなたは ゲゲの事を好きになったんでは。」
はるこ「尊敬してますよ。」
浦木「え? いや ああ いや 何も…。」
はるこ「写真 ありがとうございました。」
浦木「いえいえ…。」
はるこ「じゃあ 私は これで…。」
浦木「お~ お~ 待って下さい。 僕はですねえ 今日こそ この思いを あなたにですね。」
はるこ「浦木さん!」
浦木「はい…。」
はるこ「写真 先生の所に届けましたか?」
浦木「いえ まだ…。」
はるこ「ダメじゃないですか! せっかくの家族写真。 ちゃ~んと 届けて下さいね!」
浦木「はい…。」
(ドアの開閉音)
浦木「天使のほほ笑みだ…。」
<1年後に 東京五輪を控え 道路の整備や ビルの新築が相次いでいました。 『オリンピックまでに』を合言葉に 東京は 町中が工事現場のようでした>
工事現場
浦木「しかし どうすれば はるこさんに 俺の魅力が伝わるのかなあ…。 (ため息)」
(工事音)
浦木「うるさい! 人の思索の邪魔すんな! まったく もう おい! しかし… ゲゲが魅力的とはねえ。 男ぶりだって 稼ぎだって 俺の方が 数段上なのにね…。」
男「あっ 危ないっ!」
(スパナの落ちる音)
男「すみません 大丈夫ですか?」
浦木「気をつけろ…! まったく もう おちおち 考え事も できんわ! おっ?! あ~っ ああ~っ!」
(倒れる音)