連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第79話「旅立ちの青い空」

キヨ「まあねえ… うちは寂しいけどさ 同じ年頃の仲間ができたってのは いい事だからね。」

布美枝「うん。 そうですか。」

美智子「はい どうぞ!」

布美枝「すいません。」

美智子「は~い。」

布美枝「いただきます ほら 藍子 おいしそうだねえ。」

美智子「ウフフ~ン!」

布美枝「あ そうそう 和枝さんのところ テレビ買ったんですね。」

美智子「そうなのよ。 『オリンピック見るんだ』って 張り切ってんの。」

キヨ「猫も しゃくしも テレビ テレビ。 お客さん取られて こっちは 商売あがったりだよ。 ちょっと前まではさ 土曜の午後は ご飯を食べる暇もないほど 込んでたのにさ。 もう こう客が少ないと 忙しかった頃が懐かしいよ!」

美智子「おばあちゃん 愚痴っぽいわよ。」

キヨ「それに ほら おまけに… あの例の… 『不良図書から 子供を守る会』の連中が 商売の邪魔しにくるんだよ。 守ってほしいのは こっちだってのにさあ。」

美智子「ほんとよねえ。 うちの店も どうなる事か…。」

布美枝「そんなに厳しいんですか?」

美智子「もうね 貸し賃10円で やっていくのは 無理かも」

キヨ「やっぱり 15円に値上げかね?」

美智子「うん…。 でもね 値上げして お客さんが来なくなった店も あるって聞くしね。」

キヨ「やれやれ 八方ふさがりだ。」

太一「こんにちは!」

美智子「あっ!」

布美枝「ああ!」

美智子「太一君 来た は~い!」

こみち書房

キヨ「はい どうぞ。」

客「どうもありがとう。」

田中家

太一「やっぱり うまいなあ。 おばさんのコロッケ。」

美智子「どんどん食べてね。」

キヨ「うちに顔 出さないで どこ ウロウロしてたんだい?」

太一「うん あちこち…。」

美智子「みゆき族っていうの? 銀座辺りに集まってる若い人。 そういうとこ行ってるの?」

太一「いや 俺は ジャズ喫茶とか…。」

美智子 布美枝「ジャズ喫茶 ?!」

キヨ「不良が集まるとこじゃ ないんだろうね?」

太一「あ いや そういうんじゃ…。

美智子「あ お帰りなさい。」

布美枝「お邪魔してます。」

太一「どうも。」

政志「ああ 飯 頼むわ。」

美智子「はい。」

政志「よいしょ… はあ~。」

キヨ「今日も また お馬さんですか?」

政志「まあな…。」

キヨ「40円もする新聞買って…。 うちは 一冊10円の小商い してるってのにさ。」

政志「元 取りゃ 文句ねえだろ。」

キヨ「取ったってさ 次のレースに つぎ込むんじゃないか。 こっちは 5円の値上げで 頭 抱えてるって時に のんきなもんだ!」

政志「…うるせえな! もう…。」

太一「第8レースの本命… 逃げ馬の すんげえヤツですよね。」

政志「何だ あんちゃん… 競馬やんのか?」

太一「いや ちょっと 本で読んだだけで…。 競馬場には 行った事ないですけど…。」

政志「それじゃ 話になんないよ。 競馬っていうのは 競馬場行って 身銭切って 馬券買わねえと。 一緒に行くか? これから。」

キヨ「何 言ってんだよ あんた。 太一君を道連れにするのは よしてくれよ!」

美智子「そうよ 変な事 教えないで ちょうだい。」

政志「冗談だよ。」

太一「俺 行きます!」

布美枝「えっ!」

美智子「えっ!」

太一「いっぺん 行ってみたかったんです。 連れてって下さい!」

美智子「太一君…。」

嵐星社

茂「え? もう創刊ですか? 確か 創刊は 今年の秋と…。」

深沢「そのつもりだったんだけど 思いの外 トントン拍子に 準備が進んでね。 資金も なんとか 調達できた事だし こうなったら 早い方がいいから。」

茂「『ゼタ』?」

深沢「雑誌の名前。 『月刊ゼタ』。」

茂「『ゼタ』か…。」

深沢「カタカナ2文字って ちょっと ないでしょ?」

茂「なかなか新鮮ですな。」

深沢「でね 急ぎで申し訳ないんだけど 原稿 お願いできないかなあ。 8ページの短編を1本。」

茂「ええ。 いつまでに?」

深沢「早ければ早いほど いいよ。 何しろ もう 印刷所に入れないと 間に合わない。」

茂「ええっ?!」

深沢「実は 何本かは 古い作品の 再録にしようと思ってるんだ。 さすがに 書き下ろしを揃えてちゃ 間に合わないから。」

茂「でしょうなあ。」

深沢「2号 3号と出しながら 形になっていけば いいんだよ。 雑誌の創刊なんてものは 勢いだからね。 勢い!」

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