倉田「夏は 暑うて たまりませんわ。 描いては コンクールに出し やっと 『ゼタ』に載って…。 なんや 先生の漫画の手伝いが できるなんて 夢のようで…。」
茂「漫画が好きなんだなあ。」
倉田「絵が好きなんです。 それに 取り柄いうたら 絵描く事ぐらいやから 人より稼ごう思たら 漫画しか ないんですわ。 母が ずっと 働き通しやったんです。 父は 体 壊して 寝ついとるもんやさかい。 下に 弟が 3人おって 長男の自分が しっかり稼がんと いつまで経っても 母が 楽できまへんよって。」
(鼻をすする音)
菅井「さっきは ごめん…。 『小僧のくせに』なんて言って。」
倉田「いや ええけど。」
茂「あんた どこから来た?」
菅井「栃木です。 家は カンピョウ農家で。」
茂 布美枝「え?」
茂「カ… カンピョウ?」
菅井「はあ…。」
茂「似とるはずだな。」
布美枝「はい。」
(布美枝と茂の笑い声)
菅井「何か おかしいですか?」
茂「ヘヘヘ…。」
小峰「お風呂を頂きました。」
布美枝「え?」
茂「さっきの人か?」
布美枝「別人みたい…。」
茂「名前は 何と言ったかな?」
小峰「小峰です。」
茂「あ~ そうそう… 俺は この人を 今日 スカウトしてきたんだ。」
布美枝「スカウト?」
茂「おう。 深大寺のお堂の前で。」
布美枝「はあ~。」
茂「ほんなら 飯を食ったら 労働条件を 相談しよう。」
倉田「はい。」
菅井「あの… 僕は どうなります?」
茂「あんたは ちょっとなあ。 飯を食ったら 帰りなさい。」
菅井「アシスタント見習という事では どうでしょうか?」
茂「ううん。」
菅井「せめて 1か月だけでも 試しに!」
茂「いや~。」
菅井「ダメですかあ…。」
<結局 頼りなさそうな菅井青年も ひとまず使ってみる事となり…。 調布の狭い家に 3人のアシスタント達が ひしめき合うようになったのです>
嵐星社
深沢「ほお~ そうか。 いっぺんに3人も…。 ああ ちょっと待ってて。 加納君。」
郁子「はい。」
深沢「水木さん 例のプロダクションの件 話を聞きたいって言ってたけど 今から行ける?」
郁子「ええ。」
深沢「じゃあ 早い方がいいでしょう。 これから 加納君に 行ってもらうから…。 うん。 はい! よろしく。 はあ~ 小峰 章か…。」
郁子「誰ですか?」
深沢「水木さんとこの 新しいアシスタント。」
郁子「お知り合いの方ですか?」
深沢「いや。 でも 漫画は 知ってる。 貸本漫画で ちょっと いいの 描いていたから…。 ふ~ん なかなか 面白そうなメンツが そろったなあ。」
水木家
居間
茂「ふ~ん 面倒なもんですなあ。 会社を作るというのも。」
郁子「定款を作ったり 登記したり 難しい事もありますけど 大丈夫ですよ。 信用のおける司法書士も ご紹介しますから。」
布美枝「郁子さんは こげに難しい事も ご存じなんですね。」
郁子「この間 黒田プロの設立を お手伝いした時に ちょっと勉強したんです。」
布美枝「はあ。」
郁子「発起人は 7人 必要です。 経理は 奥さんが担当されますか?」
布美枝「私ですか?」
郁子「黒田先生の所は 奥様が 経理を見ていらっしゃいますよ。 布美枝さん 簿記の知識は お持ちかしら?」
布美枝「いえ 私は…。」
豊川「こんにちは。」
(ノック)
布美枝「は~い。」
郁子「それじゃ 私は これで。」
茂「ああ もうちょっと 待っとって下さい。 まだ 聞きたい事もあるし。」
豊川「先生 お邪魔します。」
船山「お邪魔します。 お~っ 今日は 飛びっ切り べっぴんな先客がいますね。 アハハハハ… フフフ…。」