玄関
英治「先生 よろしくお願いします!」
医者「坊やの熱は いつからですか?」
英治「夕方ごろ 急に高い熱が出て おなかも下しています。」
寝室
花子「先生… 歩は?」
医者「残念ながら 疫痢の可能性が高い。」
英治「疫痢…。」
平祐「そんな…。 なんとかしてやって下さい。」
花子「先生 歩を助けて下さい! お願いします! お願いします!」
英治「お願いします!」
<当時 疫痢は たくさんの 子どもが命を落とす 最も怖い病気とされていました。>
医者「もう一度 強心剤をうとう。」
「はい。」
花子「歩ちゃん?」
英治「歩。」
花子「まあ… やっと気持ちよくなったのね。 歩のおめめの なんて きれいなこと…。 こんなに高い熱が出たのに ちっとも目が曇らないのね…。」
花子「歩ちゃん。 さあ おぶを飲みましょうね。 歩ちゃん? 歩ちゃん。 歩ちゃん! 歩ちゃん!」
英治「先生…。」
医者「もう お時間がないので 抱いてあげて下さい。」
英治「花子さん…。」
歩「お母ちゃま。」
花子「何? 歩ちゃん。」
歩「僕が『お母ちゃま』と言ったら 『はい』ってお返事するんだよ。」
花子「お返事しますとも。」
歩「お母ちゃま。」
花子「はい。」
歩「お母ちゃま。」
花子「はい。 歩ちゃん? お母ちゃまのお返事 聞こえないの?」
歩「お母ちゃま…。 …ちゃま。」