カフェー・タイム
かよ「絵描きさん。 今日は 身内だけで 貸し切りなんですけど…。」
旭「これで 飲めるお酒下さい。」
かよ「また やけ酒ですか? どうぞ。 かよ姉やん特製のコーヒーじゃん。」
もも「頂きます。 あ…。」
村岡家
居間
英治「花子さん 時折 ももさんに 本や手紙は送ってましたけど このところ 返事がなくて おかしいと思ってたんです。」
ふじ「ももは 北海道で どんな暮らしをしてたずら…。」
カフェー・タイム
花子「もも。 もう 北海道には 戻らんでいいだよ。」
かよ「ほうだよ。 逃げ出すほど つらかったとこなんか 戻るこんないさ。」
花子「もも。 お姉やんと一緒に暮らそう。 英治さんは 優しい人だから ももは 何も気にしなんでいいだよ。 おら… もっと ももの事 分かってやらんきゃ…。」
もも「お姉やんには 分からないと思う。 あんなに いい暮らしして 立派な仕事して… 旦那さんにも 大切にしてもらって…。 幸せなお姉やんには 私の気持ちなんか分かりっこない。 どうして こんなに違うんだろう…。 同じおとうとおかあから 生まれたのに…。」
吉太郎「もも。 おらも昔 同じこん考えた事がある。 『はなは 東京の女学校行って 最高の教育受けてるに 何で 長男のおらが 地べた はいつくばって 百姓やってるずらか』って…。 あの頃ぁ おとうを恨んでた。」
吉太郎「あの人は 口では 『人間は平等だ』とか 言ってるけんど はなだけを特別扱いしただ。 もも。 いいから 全部 ぶちまけちめえ。 腹ん中にたまってるこん 言っちめえ。 何で逃げてきたのかも 全部 話してみろし。」
もも「食べる物も着る物もなくて 本当に 冬はつらかった…。 雪ん中 はだしで仕事したり…。 それでも まだ あの人が生きてた頃は 頑張れた。 みんなで必死に土地耕してれば そのうち 楽な生活が できるようになるって信じて 来年こそは 来年こそはって 頑張ってた。」
もも「…けど うちの人が 病気で働けなくなったら 親兄妹みんな 冷たくなって…。 薬買うために お金借りようとしたけど みんな その日 生きていくのに 精いっぱいで 貸す金なんか ないって言われた。 最後は 葬式も出してやれなかった…。」
かよ「旦那さんが亡くなってっからは どうしたでえ?」
もも「誰も助けてくれなくて… 住むうちもなくて… 馬小屋で寝てた。 町に出た時 ラジオから お姉やんの声が聞こえてきて…。」
回想
有馬『お伝えしますは 村岡花子先生です』。
花子『全国の お… お小さい方々 ごきげんよう』。
回想終了