蓮子「駄目です。 いけません。」
純平「お母様… どうしてですか?」
蓮子「あなたは まだ 勉強しなければならない事が たくさん あります。 戦地が どういうところかも 分かっていないでしょう。」
純平「僕は お国のために身をささげ お母様たちを お守りしたいんです!」
後日
花子「純平君が そんな事を? 蓮様。 龍一さんは 何て?」
蓮子「龍一さんには とても そんな事言えないわ。」
花子「どうして?」
蓮子「彼は 中国との戦争を 終わらせるために 昔の仲間たちと活動をしているの。 家族には 迷惑かけたくないと言って あまり 話してはくれないけれど…。」
<戦争の影は 人々の暮らしの中に 忍び寄っておりました。>
村岡家
庭
美里「テル。」
梶原「ごめんください!」
花子「は~い。」
玄関
花子「梶原さん ごきげんよう。」
梶原「やあ。」
花子「お暑かったでしょう。 てっ! スコット先生!」
スコット「Hello, Hana.」
居間
梶原「スコット先生には 少し前から 修和女学校の仕事の合間に 聡文堂を手伝って頂いていたんだ。」
花子「そうだったんですか!」
梶原「ありがとう。 これからは なかなか 翻訳物は 出しづらくなると思うけど まあ できる限りの事は やろうと思ってね。 これ… 彼女のご推薦の本なんだけど どう思う?」
花子「『パレアナ! 私の大好きな物語です』 『パレアナ』…。 『どんなつらい時も希望を見出そうとする主人公が素敵ですよね。』
スコット『ええ』
花子「梶原さん この物語は 必ず 日本でも愛されると思います。」
梶原「じゃあ 決まりだな。 翻訳してくれるよね。」
花子「是非 やらせて下さい! 『スコット先生と一緒に本を 作れるなんて夢のようです』」
スコット『私もです』
花子「スコット先生は 英語が通じる喜びを 初めて私に教えて下さった 恩人なんんです。」
梶原「そう!」
花子『先生方はお元気ですか?』
スコット『何人かが日本を離れ帰国しました』
花子『そうですか… ミッションスクールへの政府の圧力が強まったと聞いて 心配していたのです』
スコット『これからどうなっていくのでしょう』
書斎
(時計の時報)
(扇風機の音)
♬~(ラッパ)
(行進の足音)
(飛行機のエンジン音)
庭
<そんな ある日の事でした。>
「役場から 連絡があったと思いますが この犬は お国のためにお預かりします。」
英治「はい…。」
花子「この犬は 娘と楽しく遊ぶ事しかできません。 お役に立てるかどうか…。」
「お国のためです。」
(鳴き声)
花子「テル…。」
<ほっそりした柴犬のテルが 戦地で勇ましく 戦えるはずが ありません。 役に立たなければ どうなるか。 花子も英治も テルが二度と帰ってこない事を 知っていました。>