連続テレビ小説「花子とアン」第132回「新しい家族」【第22週】

廊下

黒沢「先ほどの放送で 原稿にはない事を お話しされましたよね。 犬の名前を テル号と。」

花子「はい… 申し訳ありませんでした。」

黒沢「先生は これまで 子どもたちが理解しやすいように 言い回しを変える事はあっても 今日のように 本番で内容を 変える事は なさらなかったのに なぜ テル号と 付け加えたんですか?」

<まさか 自分の娘を 元気づけたかったからとは とてもじゃないけれど 言えません。>

花子「本当に申し訳ありませんでした。」

黒沢「子ども向けのニュースであっても 事実を曲げてはいけない。 それが放送というものです。 それに 政府の放送への統制が 一層 厳しくなっている事は 先生も ご理解頂いていますよね。 逓信省の検閲を終えた原稿を 変更したとなると…。」

漆原「何!?」

黒沢「あ… 漆原部長…。」

漆原「検閲済みの原稿は 変えてはならないと 何十回も申し上げているのに! 勝手に変えて 逓信省に目をつけられたら 私の首が… 番組に関わった全職員の首が 飛ぶかもしれないんですよ! 局長は 何て?」

黒沢「会議中だったので 聞いていらっしゃらないと 思います。」

漆原「そう…。 この際だから申し上げておきます。 村岡先生は 我々ラジオ局の立場というものを 理解してらっしゃらないようだ。 いいですか? 我々は 国民に 国策への協力を促す立場に あるんです。 先生は そういう社会の事には 全く興味がないかもしれませんが。」

花子「いえ… そんな事ありません。」

漆原「ご婦人というものは 家の事や子どもの事で 頭がいっぱいで ほかの事は 何にも見ないで 生きてますからねえ。」

花子「お言葉ですが 女性の関心は 家の中だけではなく 確実に社会に向いています。」

漆原「では 我々組織の立場も 配慮して頂きたいですね。」

黒沢「村岡先生のお話を楽しみにしている子どもたちのために この番組は続けていきたいんです。」

花子「本当に申し訳ありませんでした。 以後 気を付けます。」

漆原「…ったく。 これだから 女は。」

村岡家

玄関

花子「ただいま帰りました。」

美里「お帰りなさい お母ちゃま! テルは 元気なのね!」

居間

美里「テルは 偉いのよ。」

旭「うん。」

美里「戦争に行って 兵隊さんのお手伝いをしたから テル号っていう名前になったの。 テルより偉い名前なのよ。」

英治「今日 お義兄さんが美里に…。」

花子「兄やんが何か?」

英治「テルは もう戻ってこないって 言われて 美里 泣いてしまったんだ。」

花子「そ… それで?」

英治「でも 放送を聞いてから すっかり元気になった。 テル号は テルだと思ってるよ。」

書斎

回想

黒沢「子ども向けのニュースであっても 事実を曲げてはいけない。 それが放送というものです。」

回想終了

花子「(ため息)」

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