もも「えっ… おとう ブドウ酒なんて造り始めたの?」
吉平「声がでけえ!」
「かよさん ごちそうさん。」
かよ「ありがとうございました。」
軍人たち「ごちそうさま!」
もも「ありがとうございました。」
吉平「かよ! コップくりょう! このブドウ酒 英治君にも飲んでもれえてえだ。」
花子「おとう… そのブドウ酒 本当に飲めるの?」
吉平「バカにしてもらっちゃ困る。 徳丸んとこにゃあ負けんだぞ。」
英治「それは 楽しみです。」
吉平「いいけ? かよ。 ブドウ酒 あんな軍人なんぞに 出すんじゃねえぞ。」
かよ「えっ? 何で?」
吉平「あいつら 甲州のブドウ酒 根こそぎ持ってって どうせ 夜な夜な 宴会でもやってるずら!」
かよ「そんな事…。 軍人さんに失礼だよ。 お国のために 働いて下さってるのに。」
吉平「ほりゃあ 俺たちも一緒じゃん。」
かよ「おとうは 何も分かってない!」
吉平「かよ… おまん どうしたでえ?」
もも「2人とも落ち着いて。」
英治「さあ お義父さん 飲みましょう。」
もも「おとう。」
英治「お義父さん。 頂きます。 うん! これは うまいですね。」
吉平「ほうずら?」
英治「ええ。」
花子「ああ そうそう。 今日は かよとももに 相談があって来たの。」
もも「相談?」
花子「おとうがね 甲府に疎開してこないかって。」
英治「甲府には 食いもんはある。 東京から 疎開してきてる人らもいる。 食べ盛りのボコのためにも みんなで甲府に疎開してこうし。」
花子「それで… 美里を 甲府で預かってもらおうと思うの。 8月には 生徒たちの集団疎開の 計画もあるみたいだから。」
もも「そう…。 お姉やんは どうするの?」
花子「私は 東京に残るわ。 英治さんも仕事があって 東京を離れる訳にはいかないし うちには 大切な本も たくさんあるし。 かよは どうする?」
かよ「私は 行かない。」
吉平「何でだ? 大した配給もねえに 店やっていくのも苦しいら?」
かよ「私にとって この店は 命より大切なもんだ。 物不足で大変だけど なんとか やってく。 私は 東京に残って この店を守る。」
花子「かよ…。」
安東家
(セミの声)
玄関
花子「ごきげんよう!」
直子「おじぃやん おばぁやん 来たよ!」
吉平「おお~! 来たけ!」
ふじ「待ってただよ~!」
<美里と直子が安東家に やって来るのは 初めてです。」
ふじ「さあさ 上がれし 上がれし。」
花子「さあ 2人とも その前に。」
2人「はい!」
美里「今日から お世話になります。 よろしくお願いします。」
直子「よろしくお願いします。」
ふじ「よろしくお願えします。」
リン「て~っ! よ~くできたボコたちじゃんけ!」
花子「リンおばさん! 朝市も いつの間に。」
朝市「美里ちゃん 直子ちゃん よく来たじゃん。 2人の転校の手続きは もう済んでるだよ。」
花子「ありがとう。 朝市先生が学校にいてくれると 思うと 安心じゃん。」
美里「朝市先生 よろしくお願いします。」
直子「よろしくお願いします。」
朝市「てっ! こちらこそ よろしくお願いします。」
リン「て~っ! よ~くできたボコたちじゃんねえ。」
吉平「ほりゃあ 俺の孫だから 当たり前じゃん。」
ふじ「また始まっっとう。」
(笑い声)
ふじ「上がれし 上がれし。」
武「ごめんなって。」
花子「武! 徳丸さんも ご無沙汰しております。」
徳丸「おう。 疎開してきただけ。 東京は えらく大変みてえじゃんな。」