吉平「いいだ いいだ。 何か あった時に 役に立つかもしれんら。 ほら。 うん。 ほら。」
花子「ありがとう…。 頂きます。 美里。 直子ちゃん。 おじぃやんやおばぁやん それから朝市先生の言う事を よ~く聞いて いい子にしてるのよ。」
直子「はい。」
美里「はい…。」
「こんちは!」
「直子ちゃん 川行って遊ばんけ?」
直子「伯母ちゃま 行ってきていい?」
花子「ええ。 いっぱい遊んでいらっしゃい。」
直子「美里お姉ちゃんは?」
美里「私は いい。」
ふじ「夕飯までにゃあ帰ってくるだよ。」
直子「は~い! 行ってまいります。」
花子「気を付けてね。」
吉平「気ぃ付けて行ってこうし。」
ふじ「行ってこうし。」
美里「お母様。 私も一緒に東京に帰っては駄目?」
花子「美里…。 東京のお友達も 近いうちに みんな疎開してしまうのよ。 東京に帰るよりも ここで 新しいお友達を つくった方が楽しいわよ。 直子ちゃんの面倒も こぴっと見てあげてね。」
美里「はい。」
花子「じゃあ 汽車の時間だから。」
美里「お母様。」
花子「美里…。 お手紙書くから 美里も書いてね。」
美里「ええ 書くわ。 お父様とお母様に。」
花子「おとう おかあ お願いします。」
ふじ「気ぃ付けてね。」
吉平「大丈夫 大丈夫。」
花子「おかあ 重たいでしょう…。」
ふじ「はな おかあにもお手紙書えてくりょう。」
村岡家
居間
旭「銀飯なんて 本当に久しぶりだな。」
もも「明日から また 代用食ですよ。 お姉やんが持ってきてくれた お米や みそは 大事に取って置かないと。」
旭「分かってるよ。 いつまで こんな生活が続くんですかね。」
英治「うん…。 花子さん どうしたの?」
花子「ああ… ちょっと疲れてしまって…。」
もも「重い荷物持って 汽車に揺られたから…。」
英治「大丈夫?」
花子「ええ。 ちょっと 先に休ませてもらうわ…。」
英治「花子さん!?」
もも「お姉やん!?」
英治「花子さん! すごい熱じゃないか…。」
(ふすまが開く音)
英治「先生。 妻は…。」
医者「ジフテリアに感染してますな。」
英治「ジフテリア…。」
医者「感染の危険がありますから 症状が落ち着くまで 奥さんの部屋には 絶対 誰も入らんこと。」
<ジフテリアというのは 心臓まひや神経まひを起こして 死に至る事もある病気です。>
安東家
居間
吉平「ふじ。」
ふじ「はいはい。」
吉平「はなが病気んなったらしい。」
ふじ「えっ!?」
吉平「ジフテリアっちゅう 人にうつる病気だとう…。」
ふじ「えっ!?」
吉平「容体は 落ち着いたって 書えてあるけんど…。」
美里「お母様 ご病気なの!?」
ふじ「あっ 美里ちゃん。」
吉平「ハハハハ 心配しなんでいい。 ハハハ。 お父様が 優秀なお医者さんを 見っけてくれたらしい。 必ず よくなるだ。」
夜
美里『お母様。 ご病気だと聞きましたが お加減 いかがですか?』。