村岡家
玄関
花子「純平君?」
純平「大変 ご無沙汰しております。」
居間
花子「お母様 お変わりない?」
純平「おかげさまで。」
花子「実は… お母様と しばらくお会いしてないの。」
純平「やはり そうでしたか。」
花子「えっ?」
純平「母は 以前 花子おば様の事を よく 僕たちに話していました。 本当に楽しそうに。 でも… ある時から パタリと何も言わなくなりました。」
花子「ごめんなさい…。 私たち 衝突してしまったの。 お互い譲れない事があって…。」
純平「みんな 離れていきます。 うちは 父も母も変わってますから。」
花子「そんな…。」
純平「母の事が心配です。 花子おば様。 何かあった時は 母を助けてやって下さい! お願いします!」
花子「純平君…。」
純平「どうしても それだけを 花子おば様にお願いしたくて。 お邪魔しました!」
花子「ま… 待って! 純平君。 これ 今夜 皆さんで召し上がって。 お母様もお好きなブドウ酒よ。」
純平「いいんですか? こんなに貴重なもの…。」
花子「味は 保証できないの。 甲府の実家の父が造った ブドウ酒だから。」
純平「遠慮なく頂きます。」
花子「純平君。」
純平「はい。」
花子「うちの歩も生きていたら あなたと同じように 今頃 兵隊さんになって 出征していたはず。 あなたを送り出す 蓮子さんの気持ちを思うと たまらないの。 お母様のために 必ず帰ってきなさい。」
純平「母の事 どうか どうか よろしくお願いします!」
花子「純平君…。」
宮本家
居間
純平「どうしたんですか? こんな ごちそう!」
蓮子「まるで おとぎの国から魔法使いが やって来たみたいでしょう?」
富士子「ただいま帰りました。」
蓮子「お帰りなさい。」
純平「お帰り 富士子。」
富士子「お兄様! どうしたの?」
純平「何でもない。 ただの休暇だ。」
富士子「まあ すごいごちそう!」