村岡家
書斎
英治「せっかく翻訳した原稿が…。」
花子「原稿は また書き直せばいいのよ。 この原書と辞書がある限り 大丈夫。 何十回 爆弾を落とされようと 私 この翻訳を完成させるわ。 私にできる事は これだけだから。」
<蓮子や醍醐は… みんなは 無事だろうか。 花子は 祈るような気持ちで 翻訳を続けました。>
寝室
美里「今夜も 空襲が来るんじゃないかしら。」
かよ「いつになったら ゆっくり寝られるのかな。」
花子「どんなに不安で暗い夜でも 必ず 朝がやって来る。 アンも言ってるわ。 『朝は どんな朝でも美しい』って。」
美里「お母様 アンのお話して。」
花子「いいわよ。」
花子「『『ゆうべは まるで この世界が 荒野のような気がしましたが 今朝は こんなに日が照っていて 本当にうれしいわ。 でも 雨降りの朝も大好きなの。 朝は どんな朝でも よかないこと? その日に どんな事が起こるか 分からないんですもの。 想像の余地があるから いいわ』』。」
書斎
<生と死が紙一重の中で 花子は 翻訳を続けました。>
花子「『What’s your name?』。 『『名前は 何ていうの?』。 子どもは ちょっと ためらってから 『私を コーデリアと 呼んで下さらない?』と 熱心に頼んだ。 『それが あんたの名前なのかい?』。 『いいえ。 あの… 私の名前って訳じゃ ないんですけれど コーデリアと呼ばれたいんです。 すばらしく 優美な名前なんですもの』。 『何を言っているのか さっぱり分からないね。 コーデリアというんでないなら 何という名前なの?』。 『アン・シャーリー』』。」
(鐘の音)
花子「アンって 私に よく似てる…。」
はな「てっ? なにょう言ってるでえ。 おらに似てるずら。 グッド イブニング! 花子。」
花子「てっ…。 あ… あなた 私? …はな?」
はな「はなじゃねえ。 おらの事は 花子と呼んでくりょう。」
花子「てっ! やっぱり 私だ。」
はな「その本 面白そうじゃんけ!」
花子「ええ。 すごく面白いわよ。」
はな「おらも読みてえ。 ちょっこし 読ましてくれちゃあ。」
花子「ええ。」
はな「てっ! 英語じゃん! 全部 英語じゃんけ! 花子は これ 全部 読めるだけ?」
花子「ええ 読めるわ。 あなたが 修和女学校にいる時 こぴっと頑張って 英語を勉強してくれたおかげで 私 今 翻訳の仕事をしているの。 村岡花子という名前で。」
はな「村岡花子…。 おらも頑張ったけんど 花子も頑張ったじゃん!」
花子「ありがとうごいす。」
はな「この本 どんな話か 教えてくれちゃあ!」
花子「ええ。 物語の舞台は カナダのプリンス・エドワード島。 主人公は赤毛で そばかすだらけの 女の子 アン・シャーリー。 生まれて間もなく両親を亡くして 孤児院へ預けられたアンは ふとした間違いで 男の子を欲しがっていた マシュウとマリラという兄妹のおうちへ やって来るの。」