英治「かよさんは?」
花子「分からないの…。 ここには来てないのね。」
英治「うん…。 僕らも さっき なんとか たどりついたところで。」
旭「工場が爆撃されて お義兄さんと逃げてきたんです。」
書斎
もも「お姉やんの大切な部屋が こんな事になるなんて…。」
花子「でも 燃え広がらなくて よかったわ。」
旭「もし 火が広がっていたら どうなっていたか…。」
英治「大事な本を 防空壕に隠しておいて よかった。」
花子「かよ…。」
居間
花子「かよ!」
もも「かよ姉ちゃん!」
花子「無事だったのね。 よかった…。」
かよ「お姉やん…。」
花子「かよ?」
かよ「私の店… 焼けてしまったの。 あの辺は 全部 燃えて 何にも残ってない。 お姉やん…。」
宮本家
台所
富士子「配給 また おいも?」
蓮子「お母様は おいも好きよ。 おいもにはね お父様との思い出があるの。 お父様と一緒になった頃 よく お父様が 焼きいもを 買ってきて下さったのよ。」
富士子「(ため息) 私は 何でもいいから おなかいっぱい食べたい。」
蓮子「富士子…。」
富士子「お兄様は ちゃんと 食べていらっしゃるかしら。」
(戸が開く音)
蓮子「あなた!」
富士子「お父様。」
龍一「よかった…。 無事だったか。 空襲がひどいと聞いて 心配して戻ってきた。」
蓮子「お帰りなさい。」
龍一「ただいま。」
居間
龍一「そうか…。 純平は 出征したのか。」
蓮子「はい。 つい この間 一度だけ 特別休暇で帰ってきたんです。」
富士子「お父様がいて下さったら お兄様 喜んだでしょうに。」
龍一「私がいても あいつを喜ばせるような事は 何一つ言ってやれない。」
蓮子「私もです。 送り出す前の晩 純平に言われてしまいました。 『笑顔で送り出してくれ』と。」