玄関
蓮子「純平! 純平なの? 帰ってきてくれたのね! 純平。 純平…。 純平…。 純平!」
龍一「蓮子!」
(蓮子の泣き声と風の音)
村岡家
玄関前
梶原「ああ ここだよ。」
小泉「ああ…。 村岡花子先生のお宅 あの空襲でも 焼けずに残ったんですか。」
玄関
梶原「ごめんください!」
花子「は~い。 ああ 梶原さん お待ちしてました。 どうぞ。」
梶原「いや~ 元気そうで何よりだよ。」
花子「ええ。」
梶原「あっ こちら 小鳩書房で 児童文学の編集をしている 小泉君だ。」
花子「ごきげんよう。 村岡花子です。」
小泉「この度は お忙しいところ お時間を作って頂き 誠に恐縮でございます。」
花子「ああ そんな かしこまらないで下さい。 片づいてまいせんが どうぞ。」
小泉「失礼します。」
梶原「さあ。」
居間
小泉「うわ~! すごいですね! こんなに本が残っているとは。」
英治「ああ どうも 梶原さん。 ご無沙汰してます。」
梶原「いや~ 英治君も元気そうで何より!」
英治「おかげさまで。」
花子「英治さん。 こちら 小鳩書房の小泉さんよ。」
英治「どうも 初めまして。」
小泉「どうも。 お二人のお話は 梶原さんから いろいろと伺っています。 大変仲のいいご夫婦との事で。」
英治「ああ…。 いや…。」
梶原「英治君 聞いたよ 青凛社の事。 本当に残念だったね。」
英治「ええ…。 今は まだ 食糧を作ったりするので 精いっぱいですが また何かの形で 本の仕事を したいと思ってます。」
梶原「そうだね。」
英治「とにかく 家族と このうちが 無事だっただけで幸運です。 梶原さんのところは?」
梶原「家は 焼けてしまったけど 幸い 妻の実家は無事でね。 妻と2人で身を寄せているんだ。」
花子「富山先生… あっ 今は 梶原先生ですね。 お元気でいらっしゃいますか?」
梶原「ああ。 彼女は 家より本を 失ってしまった事を悔やんでるよ。」
花子「あっ あの いつでも 本を読みにいらして下さいと お伝え下さい。」
梶原「世の中が少し落ち着いてきたら 出版業界も 一気に動き出すと思うんだ。 これから 出版できる原稿を 探していると言うんで 小泉君を連れてきたんだよ。」