寄宿舎
はな「私 何やってんだろう…。 蓮様…。」
安東家
庭
<蓮子の婚約のニュースは 甲府にも届きました。>
ふじ「朝市 ここに何て書えてあるでえ。」
朝市「蓮子さん 九州の石炭王と婚約したんです。」
リン「てっ!」
吉太郎「婚約…。」
もも「石炭王と伯爵様じゃ どっちが偉えずらか?」
リン「ほりゃあ 身分は 伯爵様が上で お金は 石炭王の方が 何十倍も持ってるだよ。」
もも「てっ! 蓮子さん 大金持ちのお嫁さんになるだけ? いいな~!」
リン「ほんのちょこっとの間 おらたちの仲間かと 思ったけんど やっぱし 住む世界の違う お嬢様だっただね~。」
周造「そうさな。」
ふじ「蓮子さん あんときゃ もう 決心してただね…。 誰にも打ち明けずに 自分の胸にしまい込んで…。」
朝市「あの日の魚釣りは 楽しかったじゃんね。 蓮子さん 独身最後の思い出を 作りに来たずらか。」
回想
はな「こういうの 英語で ビギナーズラックっていうんですよ。 初めての人にだけ訪れる 幸運の事。」
朝市「ふんじゃあ 一回きりってこんけ。」
はな「アハハ ほういう事になるね。」
蓮子「最初で最後の幸運…。」
蓮子「『君死にたまふことなかれ』。 吉太郎さんが持っていて下さい。」
回想終了
<ここにも1人 淡い初恋を打ち砕かれ 胸が張り裂けそうな若者が いたのでございます。>
葉山邸
園子「嘉納様と 亡くなった奥様との間に お子様が 一人も いらっしゃらなかったのも 幸いでしたわね。 蓮子さんは まだお若いから 跡継ぎを何人でも 産めるじゃありませんか。 こう言っては なんですけれど その子が 嘉納家の莫大な財産を 引き継ぐんですからね。」
葉山「まさに金の卵だな。」
蓮子「そんなに すばらしい結婚なら お譲りしましょうか。 お兄様と離縁して お姉様が 金の卵を お産みみなったらいかが?」
園子「蓮子さんったら そんな 面白いご冗談をおっしゃって。 ホホホホホホ。」
(虫の声)
葉山「昼は記者たちがうるさかったのに 静かになったな。」
園子「警察に通報しましたの。」
葉山「ああ…。」
園子「あっ そういえば 修和女学校の生徒が1人 保護されたそうですよ。 家の前で 記者に もみくちゃにされたんですって。」
<蓮子は はなだと確信しました。>
蓮子「お兄様 学校に行かせて下さい。」
葉山「学校?」
蓮子「置いてきた本を 取ってきたいんです。 1時間でいいから 行かせて下さい。」