<そうなのです。 あのトラウマは 消えません。 よりによって ブドウ酒を持ってくるとは つくづく 間の悪い人ですね。>
醍醐「はなさんの代わりに 私が頂いてもよろしくって?」
英治「ああ…。」
醍醐「はな先生 受賞おめでとうございます!」
はな「はな先生なんて やめて 私は 甲府のしがない代用教員よ。 醍醐さんこそ すてきな職業婦人になられて!」
醍醐「こっち こっち!」
はな「てっ! かよ? ど… どうして ここに?」
かよ「醍醐さんが知らせてくれたの。 お姉やん おめでとう。 よかったじゃんけ。」
はな「ありがとう かよ!」
醍醐「2人とも 今日は ゆっくりしていってね。」
はな「ありがとう 醍醐さん。 かよも すっかり見違えて。」
かよ「この着物 洋服店の女将さんが 貸してくれたの。 おめでたい席だから きれいにして行きなさいって。」
はな「はあ~… いいとこに 奉公さしてもらっただね。」
かよ「忙しいけんど 製糸工場の 女工に比べたら天国さ。 おとうは まだ帰ってこねえだけ。」
はな「うん…。」
かよ「お姉やんの晴れ姿見たら おとう どんだけ喜んだか。 『ほれ見ろ。 おとうの言ったとおり はなは 天才じゃ』って 大喜びしたずらね。 小学校の先生 辞めて 小説家になるのけ?」
はな「てっ! そんな大それた事 思ってねえよ。」
かよ「何でえ。 せっかく賞に選ばれたずら。」
醍醐「そうよ。 はなさん もっと欲を出した方がいいわ。 千載一遇のチャンスじゃない! もう一度 東京に来て 小説家を目指したら?」
はな「てっ…。」
かよ「おらも そう思う。」
はな「私が小説家?」
梶原「本気で小説家を目指すの?」
はな「梶原さん。 あの… 私 なれるでしょうか?」
梶原「あの童話は 面白かったが 君が小説家になるのは 難しいと思う。」
醍醐「編集長 どうしてですか?」
梶原「僕は 強烈な個性の小説家たちを たくさん見てきた。 安東君は そこらの人に比べると 個性的で常識外れのところもある。 だが 小説家になるには 普通すぎる。」
はな「諦めた方がいいって事ですか。」
梶原「そうだ。」
醍醐「編集長…。」
はな「はっきり おっしゃって頂いて ありがとうございます。」
<はっきり そこまで言われると やはり ショックな はなでした。>
須藤「では 児童の友賞に輝いたお二人に 受賞のお言葉を頂きましょう。 まず 宇田川さんから。」
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宇田川「審査員の先生方。 私を選んだ事を 後悔させないような 売れっ子の小説家に すぐになってみせます。 ですから 早く仕事を下さい。」
(拍手)