<軍隊に入った吉太郎は うちには戻らず 志願して憲兵になりました。>
ふじ「『きちたろう』。」
もも「兄やん たまには 帰ってきてもいいじゃんね。 憲兵の仕事って ほんなに忙しいずらか。」
ふじ「元気でやってくれたら それでいいだよ。」
周造「そうさな。」
はな「お盆には 帰ってこられるといいね。」
吉平「帰ったぞ!」
<地主の徳丸さんに 借金を返すと宣言した吉平は 相変わらず忙しく 全国を回って行商しています。>
吉平「いい土産を持ってきただ!」
ふじ「はっ?」
吉平「縁談話じゃ!」
もも「てっ!」
はな「おとう… おら もう縁談はいい…。」
回想
望月「ご縁がなかったようです。」
はな「望月さん…。」
望月「失礼します。」
回想終了
はな「お見合いは つくづく 向いてねえって分かったから…。」
吉平「違う。 はなにじゃねえ。 ももの縁談じゃ。」
ふじ 周造「てっ!」
もも「てっ! おらに?」
吉平「ああ。 旅先で知り合った 森田君っちゅう若者だけんど これが なっかなか 見込みのあるやつでなあ! 新天地の開拓のために 一家挙げて 北海道に移住するだとう!」
はな「北海道?」
もも「北海道? そこ どこでえ?」
はな「遠くて 冬は すごく寒い所。」
もも「東京と どっちが遠いでえ?」
はな「北海道の方が ずっとずっと遠く。」
ふじ「何でまた ほんな遠くに行く人との 縁談なんか…。」
吉平「ああ 森田君は ほりゃあ いいやつなんじゃ。 働きもんの もものこん話したら 向こうも是非にと言ってくれてる。 ほれに 時代は 今 北海道だ。 まだ誰のもんでもねえ土地が ほこら中にあるし 金持ちも貧乏人もねえ。 みんな平等だ!」
周造「また婿殿の突拍子もねえ話が 始まっとう。」
吉平「これっからは 北海道の時代だ! 偉え外国の博士も言ってる。 え~… 何だっけな…。 ボーイズ ベー… アン…。」
はな「Boys, be ambitious.」
吉平「ほれ ほれ! ボーイズ ビー アンビシャスだぞ もも!」
はな「あっ おとう。 ももは 女の子だから Giris, be ambitious.」
吉平「おお! ももよ 大志を抱けし! 森田君はな でっけえ野望を持った熱い男だ。 どうでえ? 夢のある縁談ずら?」
もも「う~ん…。」
吉平「いい話ずら?」
寝室
はな「さっきの縁談の話 嫌なら お姉やんから おとうを説得するよ。」
もも「おら 家族と離れるのは 嫌だ。 地元の人と結婚して この近くで暮らしてえ。 ほうしたら みんなと ず~っと一緒にいられるら?」
はな「分かった。 北海道なんか 絶対行かせねえから 心配しんでいいよ。」
もも「ほれと… おら お嫁に行くなら 好きな人のところがいいなあ…。」
はな「もも ひょっとして 好きな人でもいるのけ? てっ! 誰?」
もも「あ…。 てっ! やっぱし言えねえ! おやすみ!」
<あんなに小さかった ももが いつの間にか 恋するお年頃に なっていたんですね。>