翌朝
郁弥「へえ~ 兄さんが描いたのか。 いいじゃないか。 そのページ 随分 こだわってるね。」
英治「児童雑誌で初めての 翻訳物だからな。」
郁弥「それだけじゃないだろ? 兄さん 本当に好きだよな。」
英治「…何が?」
郁弥「だから 安東さんの翻訳だよ。」
英治「なあ 郁弥。 今日から 聡文堂の担当は お前が代われ。」
郁弥「え…。 兄さん そこまで思い入れあるのに何で?」
英治「父さんも お前に早く 独り立ち してほしいと思ってるし 創刊号が刷り上がるまでは 俺も手伝うから。」
郁弥「分かった。 しっかりやるよ。」
英治「頼んだぞ。」
郁弥「行ってきます。」
聡文堂
醍醐「村岡印刷さんの打ち合わせ 何時からですか?」
須藤「もう来るはずだけど?」
醍醐「大変!」
郁弥「こんにちは。 村岡印刷です。」
醍醐「あら… 郁弥さん。」
郁弥「この度 聡文堂さんの担当を 引き継ぐ事になりました。 弊社の都合で 申し訳ないんですが 今後は 兄の代わりに 僕が伺いますので よろしくお願いします。」
梶原「そうか。」
郁弥「兄は 印刷所の方で 責任を持ってやりますから。」
梶原「分かった。 よろしく。 じゃあ 座って。」
醍醐「という事は もう お兄様は ここには いらっしゃらないのね。」
郁弥「これ 見て下さい。」
梶原「ああ。」
郁弥「『王子と乞食』のページに どうでしょうか?」
梶原「安東君。 ちょっと。」
はな「はい。 まあ… なんて すてきな挿絵なんでしょう!」
<その挿絵が 英治の描いたものとは知らず 心引かれる はなでした。>
夜
かよ「失礼します。 お姉やん 大変!」
はな「(小声で)てっ… かよ。 どうしたでえ?」
かよ「お店に ひげを生やした おっかねえ おじさんが来て 『お姉やんの事 呼べ』って…。」
はな「てっ?」
かよ「こ… こんなに チップくれただよ!」
はな「誰? おっかねえ おじさんって…。」
かよ「とにかく来て!」
はな「ああ…。 皆さん 今日は お先に失礼します。 ごきげんよう。」
カフェー・ドミンゴ
かよ「あの人じゃん…。 知ってる人け?」
はな「あ… あの… 安東はなです。」
嘉納「あんたが はなちゃん?」
はな「はい… はなちゃんです。」
嘉納「まあ 座りんしゃい。」
はな「失礼します…。」
嘉納「何でん 好きなもんを 頼みんしゃい。 おい。」
かよ「はい。」