糸子「そら かかってんで。 何せ うっとこにまで 新聞の取材やら 来たんやで。 若いお客さんがな『ここの店 直子さんの服は 買えるんですか?』ちゅうて 来るしなあ。 えらい騒ぎじょ。 なあ 昌ちゃん。 ええ? なあ! ほんま あん時 忙しかったわ。 ほんまに 取材 バンバン来てやで…。」
玄関前
「わ~ あ~!」
オハラ洋装店
(電話の呼び鈴)
優子「あ うち出ます。」
縫い子「はい すいません。」
優子「はい 小原洋装店です。 直子。 聞いたで… よかったな!」
直子『うん… おおきに』
優子「装麗賞 取れたんやったら もう 間違いないわ。 あんたは デザイナーとして大成する。」
直子『うん。』
優子「姉ちゃんは まあ この店を 地道に守っていくよって あんたは 東京で 思う存分 やれるとこまでやり。 あんたが 華々しく活躍すんのを うちは 岸和田から 見守らせてもらうわ。 なっ。」
直子『お母ちゃんに代わって。』
優子「うん。 お母ちゃん 直子や。」
糸子「うん…。 おおきに。 もしもし?」
直子『ちょっと お母ちゃん 何 あれ?』
糸子「はあ?」
直子『何で あんな ほうけてんよ? アホちゃうか?! うちが ちょっと 装麗賞 取ったくらいで あんな ふぬけた声で『おめでとう』とか ぬかしよって!』
糸子「何がや? 何の話や?」
直子『姉ちゃんや! お母ちゃんな 甘やかしたら あかんで?! あの根性なし どうせ 毎日 メソメソしてんやろ?! あんまし続くようやっ たらな 一発 蹴り飛ばして『アホか しゃっきりせえ!』ちゅうて 怒っちゃってや!』
糸子「何で うちが あんたに どやされな あかんねん!」
<せやけど まあ 直子に言われるまでもなく うちも ここで 変な気遣いは むしろ 毒やと思てました。 普通にしちゃあたら ええんや 普通に…>
北村「毎度やで~! よう 見たど 装麗賞! ごっついやんけ! これ 店のいっちゃん目立つとこに バ~ン 飾っちゃれ。 そやけど 笑たで。 あの けんかと 食う事しか能ない 思っちゃあった山猿が 装麗賞て。 こんなおもろい話 ないど~。 お~お~ お母様! お前も 鼻 高いやろ! 孝行者やど あいつ! いっちゃん 悪そうな顔しちゃあんのによ。 おう お前も 負けちゃあったら あかんど! こんなもん お前… すごいがな!」
優子「あ~っ!」
(泣き声)
北村「何や?」
珈琲店・太鼓
北村「悪い事してもうたよ…。」
糸子「いや せやけど かめへんて。」
北村「え?」
糸子「しゃあないやんか。 ここで 変に周りが 気ぃ遣うたとこで どうなるもんでもない。 あの子が 自分で乗り越えるしか ないんや。」
聡子「お母ちゃん。」
糸子「あん?」
聡子「それ 食べへんけ?」
糸子「いや 食べる。」
北村「あげる!」
聡子「おおきに!」