松田「どこ行くんですか?」
昌子「警察ですか?」
糸子「いや 組合 行ってくる。 また 妙なうわさ広められんように 組合長に頼んでくるわ。」
泉州繊維商業組合
三浦「うん。 ここにも来よったで 刑事。」
糸子「ほうですか。」
三浦「要はやな 例の あんたと組んで 作った洋服の売れ残り あれに 偽物のディオールのタグ付けて 売りおったんやてなあ。」
糸子「そうです。」
三浦「あいつの やりそうなこっちゃ。」
糸子「また そのタグが なんぼ偽物でも もっと しっかり 作らんかいちゅうぐらい ちゃっちいんですわ。 ほんま どこまで 詰めも 脇も 甘いんじゃて ほんま 腹立って 腹立って。」
三浦「まあまあ そやけどや。 堪忍したりや。 な! 去年も あいつ でかい失敗して 焦ってしもうとったんや。」
糸子「まあ あれは うちも痛かったです。」
三浦「けどな。 あいつの方が 傷は深いと思うで。 何ちゅうたかて あいつは 商売人としては まだ 半端もんや。 勢いだけは あっても 信用も人望も 薄い。 あんたとこなんかと比較したら もう 比べもんにならんほど 足元 もろいんやで。」
糸子「うちは そんな人 失敗させてしもたんやな。」
三浦「せやけど ほれ 初犯で捕まって よかったやないけ。」
糸子「え?」
三浦「これが もし 下手して うまい事いったらやで あいつのこっちゃ 調子に乗って なんぼでも 次から次から もう おんなじ事 繰り返しよる。 なあ!」
糸子「どのくらいの罪に 問われますやろか?」
三浦「まあ 初犯やさかいな すぐに ぶち込まれるという事は ないと思うで。」
糸子「はあ…。」
(ため息)
小原家
玄関前
(爆竹の音)
優子 聡子「キャ~!」
(爆竹の音)
糸子「何してんや あんたら!」
優子「お母ちゃん! 見てた? 今の。」
糸子「何や? これ。」
聡子「爆竹!」
糸子「爆竹て?」
優子「何や 昨日 警察 来てから みんな 気ぃが ふせいで あかんなちゅう話なってな。」
千代「ほしたら 聡子が 爆竹しようて言いだして。」
糸子「爆竹?」
優子「何でかしらんけど『そうゆう時は爆竹や!』て。」
聡子「買ってきてん うちが。」
優子「よう分かれへんけど まあね 試しに やってみようかちゅうて 今やったんやし。」
千代「やって よかったなあ。」
優子「なあ! すっきりしたわ。 おおきに 聡子!」
聡子「エヘヘ!」
千代「聡ちゃん!」
(笑い声)
糸子「何や? それ。」
優子「お母ちゃん。」
糸子「あ?」
優子「うちな 心 入れ替えたよって。」
糸子「え?」
優子「明日から また お客さんの前に立たして下さい。 うちなあ この店 ちっさい頃から あったもんやさかい あるんが当たり前みたいに 思てた。 けど ちゃうんやな。 お母ちゃんらが 必死に 守ってきたさかい あるんやな。 これからは うちも 一緒に守りたい思てます。」