糸子「言うて どないなるもんでもないがな。 ほれ! 今日は そんなんで来たん ちゃうやろ。 さっさと始めよ。」
譲「ああ… せやせや。」
栄之助「あれ出して。 あるか? ある?」
糸子「とにかく座り!」
3人「ああ… はい。」
糸子「そこ ちゃう! 椅子や。」
3人「ああ… こっち こっち。」
糸子「とりあえず 発表の日を決めたんや。 7月20日。」
栄之助「半年後ですか?」
糸子「うん。 やると決めたら ちんたらしとかて しゃあない。 ガ~ッと いこと思う。」
譲「いやいや でも せんせい この脚 ほんま 大丈夫なんですか?」
糸子「これは 1か月で治る。 うちは 風邪でも 仕事してたら 治るしな。 心配 要らん。 娘らのブランド作りを 手伝うたよって うちも なんぼかは 要領は分かってる。 けど そら あんたの方が プロやろうから こっから先の段取りやら 固めてもうて ええか?」
高山「はい 分かりました。 考えておきます。」
譲「ブランド発表までの流れて これ 大体 どんな感じよ? 」
高山「まあ 今回の場合だったら まず 先生に 会社を作ってもらうんだよ。 法人と個人じゃ 社会的信用度が 全然 違うからさ。 法人になれば 資金も 借りやすくなるし。」
後日
糸子「だんじりはな その… 重たいやろ。 重たいもんが 走り出したら 今度 止まらんねやなあ これが。 そら 誰が 何ちゅうたかて 止まらん。 周りは まあ 余計な心配せんと『はあ~』ちゅうて 見といたらええ。」
優子「プレタはな ほんまに 大変な商売なんやで。 始めてしもたが最後 一秒たりとも 息抜かれへん 気ぃ抜かれへん。 ず~っと 仕事に 追いかけられ続けるんやで。」
直子「うちらでさえなあ こんなけ ヒイヒイ 言うてんや。 こんなん言うたら 悪いけど お母ちゃんの その体で 絶対 絶対 耐えられる訳 ないんや!」
糸子「もう 決めてしもた!」
優子「ああ~?」
直子「んも~…。 引退してくれ ちゅうてんのに 何でまた ブランドなんか始めんねん? はあ…。」
糸子「まあ… 心配かけるけどやな 堪忍な。 うちは やっぱし こうゆうふうにしか生きられへん。 そら どんなけ大変な仕事か うちかて よう知ってる。 せやさかい もう始めてしもてから まあ 落ち着かんし ヒヤヒヤも ソワソワもしてるわ。 けど… 久しぶりに 何ちゅうか こう おもろいんや。 ほんま おもろい。 夜 寝るんが 惜しゅうて 朝 起きるんが 楽しみでな こんなん いつぶりやろか。」
直子「は~ああ うん…。」
優子「お母ちゃん。」
糸子「うん?」
優子「ほな うちと一緒に やろ。」
糸子「あ?」
優子「要はな うちのブランドの中に シルバー向けのラインを作ってな そこの専属デザイナーとして お母ちゃんを立てるんや。 それやったら うちの販売網で やれる。 売り出しに そこまで苦労せんで ええし 失敗のリスクかて 少ない。」
直子「ええやん。」
優子「なあ!」
直子「それ ええやん。 そないし お母ちゃん!」
糸子「ふ~ん… いや ええわ。」
優子「何で?!」
直子「何でやねんな?」
糸子「せやかて あんた ほんな 敵に 塩 送るようなまねした あかんで。」
優子「敵?」
糸子「うちかて あんたらみたいな商売敵から ほんな情け 受けたない。 この 今の うちのおもろさはな 自分の身銭 切ってこそなんや。 自分の体で 崖っぷち 立たん事には 絶対 ここまで おもろないよってな。」
直子「おもろなかても ええやん! 72やで?!」
糸子「いいや うちは おもろないと 嫌や! アイテテテテ。 おもろいん 諦めて 生きてなんか おれるかいな! あんたらも 72なったら 分かるわ。 ハハハ フフフフフ。 アイタタ!」
優子「痛いんやろ?」