小原家
庭
(カラスの鳴き声)
♬~(お囃子)
枡谷「あの~ わし 糸子さんに 勤めてもらってた パッチ屋です。」
善作「ええ… ああ! こら どうも!」
枡谷「ほんま 糸ちゃんには すまん事しましたなあ。」
善作「いや。 不況ちゅうのは ほんまに えげつないもんですさかいなあ よう分かります。」
枡谷「どないなりますねんやろなあ この先。 わしが こんな事 言えた義理ちゃいまんねんけど 糸ちゃんみたいな娘が いてたら ごっつい羨ましいですわ。」
善作「いやいや。 実際 うち おったら たまりまへんで。 次から次に 変な事ば~っかり 言いだしよって…。」
枡谷「いやいや あれは 将来 有望です。」
善作「いや…。」
枡谷「ほんまでっせ。 わしかて これまで 何人も 職人 雇てきてまんのや。 あれは 女にしとくのは もったいない。 腕もある 頭もある 先も読める。 呉服屋のおやっさん捕まえて 何でっけど あの糸ちゃんが あんだけ 熱上げるんやから 洋服ちゅうんは ほんま これから 主流になるんやろと わしも このごろ 思てまんねん。」
枡谷「こない 商売が うまい事 いけへんわ 自分も 年 取ってくるわ ゆう時に あんな頼もしい子供が 目の前 ウロチョロされちゃったら そんなええ事 あらへん!」
善作「おおきに。 そない言うてもうて。」
枡谷「糸ちゃんが わしの娘やったら さっさと 店 任せますわ。 わしなんぞが やるより よっぽど もうかりまっせ。」
安岡家
(鳥の鳴き声)
居間
八重子「あっ あった! 中村春太郎!」
糸子「こ… これ! こいつ!」
玉枝「どれどれ 見せて。 はあ~ 男前やし!」
糸子「いや おばちゃん けど ごっつ タチ 悪そうやろ?」
玉枝「いや 悪いんは悪いかしらんけど 男前や! そらなあ 若いうちは こんなに ニカ~ッて笑われたら コロッと いってしまうわなあ。」
糸子「奈津に説教したってえな。 頼むわ おばちゃん。」
玉枝「うん そやなあ。 まあ おばちゃんも そない 偉そうに言えるほど ぎょうさん 男前 知っとる訳ちゃうけどな。」
♬~(ラジオ)
木之元電キ店
善作「毎度。」
木之元「おう 毎度! 何や?」
善作「あの・・・こないだ 来ちゃったやろ? ここに。」
木之元「はあ?」
善作「何や 偉そうな…。 女や! ミシンの! 教えに。」
木之元「うん?」
善作「そやさかい ミシンの先生や! 来ちゃったやろ?」
木之元「あっ 根岸先生の事か!」
善作「そや! あれ 今 心斎橋に いてんのか?」
木之元「そうや。 心斎橋のステンガーミシンで ミシンの講師 やってら。」
善作「う~ん…。」
木之元「それが どないしたんや?」
善作「お前 場所 分かるか?」
木之元「ああ 分かんで。 わし 週に1回は 心斎橋に出るさかい。 おもろいど~ 心斎橋は! 珍しい店 ようけあるしなあ!」
善作「わし 連れていってくれ。」
木之元「おう 行こ 行こ! 今度。」
善作「今度ちゃう! 明日や。」
木之元「明日?」
善作「明日 その… ステンガーミシンに 連れてってくれ。」
木之元「明日なあ。 あっ 明日は わし ちょっと あかんわ。」
善作「ええさかい 連れていけ!」