糸子「ああ… おおきに。 ああ…。 ああ… ああ…。 おばあちゃん 寝とくか? 静子~! 2階 布団 敷いちゃって! おばあちゃん 寝かそ!」
静子『は~い!』
糸子「なあ びっくりしたなあ。 けど ちゃんと養生したら また お父ちゃん 元気になるよって。 静子~! おばあちゃんの布団 お父ちゃんの隣に 敷くんやで!」
オハラ洋装店
静子「えっ お父ちゃんの隣?」
糸子「せや。 こっちの部屋 うちが 今から お産で使うさかいな。 う~ん…!」
静子「は? お産? 今から?」
<結局 産婆さんに 来てもらう頃には どないか 戸に 新しいガラスが はまって 畳も 新しいのと 取り替えられて>
糸子「こんにちは。 よろしゅう お願いします。」
「何ぞ あったんけ?」
糸子「ああ ちょっとしたボヤですわ。 あ~ あ ああ 痛い! ああ!」
「今 何分置きや?」
糸子「ああ… 5分。」
「5分?! はよ 布団に寝とかんかいな!」
糸子「いや… あと もうちょっとで あれ 終わりますねん。 ああ!」
2階 廊下
千代「あれ 誰か お客さんか?」
昌子「はあ 産婆さんですわ。」
千代「産婆さん?」
オハラ洋装店
千代「糸子! あ~あ あんた 痛いんか?」
糸子「う~ん…。」
千代「あ~あ あんた そんな はよ 布団に寝とかな。 歩けるか?」
糸子「う~ん かめへん。 お母ちゃんは 今 お父ちゃんの事だけ 見といて。」
千代「いや~ そやけど…。」
糸子「ええから そないして!」
千代「分かった。」
糸子「う~ん…。 う~ん… ああ…。 あ~… あ… うん!」
<何でもかんでも 自分一人の力で やってきたつもりで いちゃあったけど どんだけ 周りに 助けて もうちゃったかっちゅう事が こないなってみて 初めて分かりました>
2階 寝室
<お父ちゃん 勝さん おばあちゃん。 うちなあ…>
糸子「心細いわ…。 うん う~ん! う~ん!」
静子「お姉ちゃん!」
昌子「先生 もうちょっとや!」
糸子「う~ん!」
昌子「もう一息や!」
糸子「う~ん! う~ん う~ん!」
昌子「もうちょっとや~!」
糸子「う~ん!」
(産声)