ヤス子「せやねん。 うっとこも 3人目の息子が あさって 出征やし。」
「あれまあ 3人目も?」
ヤス子「ほんでな このモンペ教室の話 聞いて 慌てて来たんや。 ちょっと見て これ。」
「ハハハ こら 上等や!」
ヤス子「入学式やら 卒業式やら よう着た着物やさかい これ 着て 見送っちゃりたい 思てな。」
「まあ そら 間に合うて よかったなあ。」
ヤス子「せやなあ。」
糸子「こんにちは。」
一同「こんにちは。」
糸子「え~ 皆さん 今日は ようこそ いらっしゃいました。 まだまだ 寒い日が続きますけど 昨日 ひょっと見たら 裏のお宅の梅が ちらほら 咲きだしてました。 まあ 春が来るんも そない先の話と ちゃいます。 皆さんには つつましい暮らしの中でも 是非 おしゃれを 楽しんでもらいたい。」
糸子「入学式や結婚式 はたまた 息子さんや旦那さんを 戦地へ送り出す日ぃに 少しでも明るく パリッとした気持ちになれる そういうモンペを 着てもらいたい。 ほんな訳で この『着物に戻せる モンペ』ちゅうのを 考えました。 皆さん どうぞ しっかり覚えて 帰って下さい。 ほな 早速 モンペ教室 始めさしてもらいます。」
一同「お願いします。」
(拍手)
八重子「すんません! すんません… モンペ教室に 参加さしてもらえませんやろか?」
昌子「すんません 今日は もう 定員いっぱいで…。」
八重子「お邪魔しました…。」
糸子「あの! 一人ぐらいやったら 座れん事も ないです。」
ヤス子「あ… ギュウギュウやけどなあ。」
糸子「すんません 木村さんと山本さん ちょっと こっち 詰めちゃって もらえますか? すんません~ん。」
八重子「すんません すんません 無理 言うて。 ほんまに おおきに!」
糸子「ほな 着物 バラしましょか。」
「小原さん あかんわ。 やっぱし うち よう切らんわ。」
「うちも ようせんわ~。」
糸子「そやなあ。 やっぱし ず~っと 大事にしてきた着物やさかい ここで みんな そう言うわ。」
「せやろ?」
糸子「けど また 必ず 着物に戻せるよって 怖がらんと切ってよ。 な?」
「うん。」
ヤス子「ええもん でけて よかったなあ。」
「お宅も 息子さん さぞかし 喜ぶで。」
ヤス子「まあ けど あんた 息子なんちゅうなもんは 親の着物なんか 何も見てへんもんやしなあ。」
「そら うちもやで。 しゃあない しゃあない。」
ヤス子「せやな。 ほな 小原さん おおきにな。」
「おおきに。」
糸子「おおきに また来てな。」
ヤス子「さいなら。」
「どうも。」