2階 座敷
木岡「ゆっくりやで。 ゆっくり!」
木之元「よいしょ! あ! 痛っ!
(千代の泣き声)
<その時 ふと 何でか やけどの時より 今日の方が 悪い事になってしもた 気ぃがしました>
糸子「お母ちゃん 何で泣くん?」
千代「え?」
糸子「泣かんといてよ! 縁起でもない。」
(泣き声)
寝室
(犬のほえる声)
<案の定 弱った体で 無理をした事は 思った以上に お父ちゃんに こたえたようで>
ハル「糸子 糸子。」
糸子「ん?」
ハル「お父ちゃんがな 何や眠れんで う~う~言うてんねん。 ちょっと 見ちゃって。」
糸子「うん? どないしたん?」
座敷
(うなる声)
糸子「お父ちゃん どないしたん? しんどい? かゆい? 痛いんか?」
(うなされる声)
糸子「何やろな。 ここか?」
(うなる声)
病院
医者「疥癬ちゅうやっちゃ。」
糸子「かいせん?」
医者「こら 皮膚科やないとあかん。 紹介状 書いちゃるよって 心斎橋の皮膚科へ 行き。」
糸子「心斎橋?」
医者「遠いけどな まあ しつこい病気やさかい しっかり通うて 治した方がええ。」
糸子「はい。」
医者「体が弱ってもうたら かかるんや。 虫でも病気でも 悪いもんちゅうんは 必ず弱い所へ 寄ってきよるんやな。」
道中
(トンビの鳴き声)
糸子「何 見てんの?」
善作「トンビ。」
(トンビの鳴き声)
糸子「ほんまや。 飛んでるな。 追っかけっこしてる。 あらぁ 親子やな。 もうすぐ ウグイスも鳴くで。」
<大丈夫やで。 うちが 絶対 治したる。 何が何でも また あの元気で やかましい お父ちゃんに 戻しちゃるよってな>
小原家
台所
糸子「疥癬ちゅうんは とにかく 清潔にせんならんよって お父ちゃんの寝巻きと敷布は これから 毎日 お湯で消毒や。」
清子 光子「はい。」
糸子「おかいさん 出来たか?」
光子「おかいさんは 出来たけど いわしが まだとちゃうか。」
清子「あ おばあちゃん 途中で しんどいちゅうて また 寝に行ったよって。」
糸子「おばあちゃん また しんどいて?」
清子「うん。」
糸子「ほな これ あんたらで仕上げ。」
清子「え? でも うちら いわしは ようせん。」
糸子「ようせん ちゃうやろ? あんたら 今まで おばあちゃんの 横で 何 見てたんや。 いつまでも誰かに頼れる思たら 大間違いやで。 あれせえ これせえ言われるの 待ってんと 自分から でける事 どんどん せんかいな!」
2人「はい。」