木之元「お父ちゃんの旅行のためにけ? 孝行な事 すんのう!」
善作「これ 純毛らしいで。」
木之元「えっ 純毛? うわ! さすがやなあ~。いや 今どき 純毛なんか ないでなあ!」
木岡「ほうよ。 やっぱり 持つべきもんは 洋裁屋の娘やの。」
木之元「あ~ほんまや。 ちょっと待て。 その足は 何?」
千代「足 足。」
木之元「足は 何?」
台所
善作「おい。」
糸子「何や お父ちゃんか。 何?」
善作「ううん…。」
糸子「うん? 何や?」
善作「何や…。」
糸子「えっ?」
善作「ご… ごっつい ええなあ ぬくいし…。」
糸子「ああ そうか…。 そんだけ?」
善作「あ… いや… あの…。 まだ お前にな ちゃんと 言うてなかったさかい。」
糸子「何を?」
善作「せやから… 礼や 服の。」
糸子「ああ… 何や ええよ! お父ちゃんに 礼なんか言われたら こそばいわ。 あっ せや。 これ!」
善作「何や? お茶か。」
糸子「お茶 ちゃう。 お水や。 お父ちゃんの大好きな お米で でけた お水。」
善作「お?! お前 まだ こんなもん 持っとったんけ?」
糸子「取っといたんや。」
善作「おおっ! お おおきに。 おおきにやで 糸子。 お~い! おいおい ごっつ ええ せん別 もろたで!」
糸子「言えるやんか『おおきに』て。 酒には 素直に『おおきに』て 言いよって。 やっぱし うちが作った服より 酒のが うれしいんやろか…。」
玄関前
千代「くれぐれも 気ぃ付けて。」
善作「分かってる。」
糸子「ほな お父ちゃん よろしゅう頼んます。」
千代「お願いします。」
糸子「行ってらっしゃい。」
善作「ほな 行ってくら!」
3人「行ってくら!」
糸子「行っちょいで! 気ぃ付けてな!」
優子「行ってらっしゃい おじいちゃん!」
「行ってらっしゃい~!」
「行ってらっしゃい~!」
オハラ洋装店
(小鳥の鳴き声)
(ミシンの音)
糸子「これ… 誰が 書いたんや? 昌ちゃん?」
昌子「はい。」
糸子「あんた これ 書いた?」
昌子「はあ? うちが 書きますかいな そんなもん。」