連続テレビ小説「カーネーション」第71回「薄れゆく希望」【第12週】

珈琲店・太鼓

糸子「閉まってもたんけ?」

奈津「せやから 言うたやろ。」

糸子「ああ あんた 何で分かったん?」

奈津「先月 東京で 料理屋から カフェーから 店っちゅう店が 全部 営業やめさせられたやろ。」

糸子「ああ 新聞 載っちゃあったな。」

奈津「大阪にも その流れが 来てしもたんや。」

糸子「ほな どこ行く?」

料亭・吉田屋

座敷

奈津「何や?」

糸子「いや 別に。 ここ うちが 祝言 挙げた部屋か。」

奈津「せや。」

糸子「営業でけへんように なったんけ?」

奈津「うん。」

糸子「ほうか。」

奈津「あんた。」

糸子「うん?」

奈津「うちの店 買えへんか?」

糸子「はあ?」

奈津「この建物と土地… 買えへんか?」

糸子「何ぼで?」

奈津「1万円。」

糸子「はあ? どこに そんな金があんねん!」

奈津「貧乏人。」

糸子「悪かったな。 あんた そんな話 うちやのうて もっと まともな相手に 持っていきよ。 なんぼでも 金持ちが いてるやろ。 神宮司さんとか。」

奈津「持ってったわ。 断られたんや。 知ってるかぎりの金持ちに 持ってって 全部 断られたんや。 どっこも 今 そんな余裕 ないちゅうてな。」

糸子「その1万円は まけられへんけ。」

奈津「店の借金が そんだけ あるさかい。」

糸子「え?! 1万円 借金が?」

奈津「せや。」

糸子「あんた 1万円も 借金 ためてもたんか?」

奈津「しゃあないやろ。 材料の値は どんどん上がんのに 客の払いは どんどん悪なっていって どないも なれへんかったんや。 うちのせい ちゃうわ。」

糸子「ア… アホか! そこを どないか 知恵 絞って やりくりすんのが 女将の仕事やろ! 何が うちのせい違うや? あんた… あんた 何 やってんねん? 何で こんななる前に 手ぇ 打たへんかってん? 1万円… 1万円て…。 もう…。 そんな 今更 言うたかて 遅いわ! 助けちゃりたいけど 助けちゃれるか ほんなもん!」

奈津「助けてくれなんか 言うてへんわ! うちが ひと事でも 言うたか? あんたに 助けてくれなんか。」

糸子「いや そもそも あんたが うちに 話あるって 電話かけてきたんや。」

奈津「うちは 商売の話してるだけや。 買われへんやったら お金ないから 買われへん ちゅうたら ええだけやんか! 何で うちが あんたに 説教されな あかんねん!」

糸子「うちは 金がないから この店 買われへん。」

奈津「ほうけ。 ほな 帰り。」

(ふすまの開く音)

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