連続テレビ小説「カーネーション」第71回「薄れゆく希望」【第12週】

(そろばんをはじく音)

糸子「昌ちゃん。」

昌子「はい。」

糸子「あんな モノは 相談やけどな。」

昌子「料理屋は 買えませんよ。」

糸子「何で 知ってん?」

昌子「八重子さんから聞きました。」

糸子「いや そらまあ なんぼ うちかて こんな時に 料理屋 買おとは 思わへんけどな。 それは 言わへんねんけど…。 1人 縫い子 雇おか。」

昌子「無理です。 無理です。 今 うちは もう 八重子さんまでで いっぱい いっぱい カッツカツです!」

糸子「堪忍な。」

昌子「先生 無理ですからね! 先生 ちょっと 先生 分かってます?」

<あのアホだけは 見捨てる訳にはいかんねん>

料亭・吉田屋

「お宅も いかれたんけ?」

糸子「え?」

「何ぼ 貸しちゃってん?」

糸子「え?」

「逃げてもうてら。」

糸子「逃げた?」

「何や。 知らんと来たんけ? 女将と ばあさん きれえに消えてしもてら。 家具やら着物やらは なんぼか 置いていっちゃるけど 店と土地は 軍需工場が 買うてしもたらしいで。 今から その工場の 寮にするんやと。」

糸子「何ぼて?」

「はあ?」

糸子「何ぼで売れた?」

「はあ そら 知らんけどな。 まあ そら えらい 買いたたかれたんちゃうか。 このご時勢や。 せやけど 痛いのう。 うっとこ 500円も 踏み倒されてもた。」

「逃げよったか?」

「ああ 中 空っぽや。」

「畜生。 まだ その辺 いてんのちゃうんけ? ヨレヨレのばあさん いちゃあったやろ? あれと一緒なんやさかい そない はよ逃げられへんはずやで!」

糸子「こん ボケが!」

「え?」

糸子「アホか! どアホが!」

「もう ここ軍のもんなんやで! 壊したら えらいこっちゃで!」

糸子「ボケ! 逃げて どないすんや! どないすんや!」

「気持ちは分かるけどや やめとけて!」

糸子「どないすんや!」

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