枡谷パッチ店
(ミシンの音)
<アッパッパが縫えんでも うちには ミシンがある ミシン見てたら 嫌な事なんか すぐ忘れられます>
枡谷「嬢ちゃんよ。」
糸子「へ? うわ! 大将や!」
枡谷「わしが大将て 嬢ちゃん 何で知ってんや。」
糸子「そら 毎日 見てるさかい。」
枡谷「ほうか。」
糸子「ほかの人の名前も全部 言えんで。」
枡谷「ほんまけ?」
糸子「うん。 田中さん 昨日休んでたやろ?」
枡谷「そや 風邪や。」
糸子「風邪か…。」
枡谷「嬢ちゃん あんた 毎日毎日 うちの店に何の用や?」
糸子「へ?」
枡谷「何を そないへばりついて 見てんや?」
糸子「ミシン。」
枡谷「ミシン?」
糸子「そや。」
枡谷「はあ~ ミシンかあ。 いやな そない男前もいてへんのに あの子は一体 何を見てるんやろと 思ちゃったんや。 はあ~!」
糸子「大将。」
枡谷「ん?」
糸子「枡谷パッチ店は ごっつい店やな。」
枡谷「そうか?」
糸子「ミシン置いてる。 なかなかないで。 ミシン置いてるとこは。」
枡谷「そら おおきに。」
糸子「礼は ええねん。 お世辞ちゃうさかい。」
枡谷「嬢ちゃん 名前 何ちゅうのや?」
糸子「小原糸子や。」
枡谷「いとこ… 縫う糸か?」
糸子「そや。」
枡谷「そんなとこ立たれたら 商売の邪魔や。」
糸子「え?」
枡谷「見るんやったらな 中で見い。」
糸子「ええの? おおきに!」
岡村「ちょい ちょい ちょいと。 で… ここに通してやるやろ。 ほんで… よし。」
糸子「ほう~!」
岡村「よし。 何や そないに おもろいか?」
糸子「うん。」
岡村「はい。」
糸子「うわ~ こっちから見たら こないなっちゃってんなあ。」
道中
糸子「チキチン チキチン トコトン トコトン! チキチン チキチン トコトン トコトン!」
枡谷パッチ店
岡村「そうそう そそそうそう うまい!」
糸子「お~う! わ~!」
岡村「最後までいったら よし ここ上げて よし! ちょっと こう 引っ張って 糸を切る。 はい!」
糸子「うわ~! いや~!」
枡谷「なかなか スジええがな。 最初は みんな そないうまい事 いかへんもんやで!」
岡村「ほんまや。」
糸子「縫えた! うち ミシンで縫えた。 いや~!」
山口「よかったな 糸ちゃん。 さ 置いとくで。」
糸子「うち やる!」
山口「え?」
糸子「やらして! はい お疲れさんです。」
岡村「ああ おおきに。」
糸子「はい お疲れさんです。」
坂本「おおきに!」
糸子「お疲れさんです。」
田中「おう おおきに!」
枡谷「せや 糸ちゃん 悪いけどな あとで ちいっと お使い行ってくれるか?」
糸子「へえ!」