小原家
勝手口
優子「行ってきます。」
千代「行っちょいで~。 気ぃ付けてな。」
優子「うん。 ちょっと。 ちょっと 待ち! 何してんの? あんたら。」
「そっちこそ 何ば しよっとや?! おいん父ちゃんば 返せ! 返せ! 父ちゃんば 返せ! 返せ!」
糸子「はれ 優子。 お習字か?」
優子「うん。」
糸子「気ぃ付けて 行っちょいで。」
優子「うん。」
糸子『ただいま。』
千代『お帰り。』
オハラ洋装店
昌子「あ~ 来年も よろしゅう頼んます。」
「よろしゅうお願いします。」
「お願いします!」
テーラー周防
周防「う~ん…。 立派な店に出来たね。」
糸子「うん。 この机一つかて 張り込んだよって。 値ぇは張っても ええもんは 古なっても ええやろ? あれ 不思議やなあ。 時計かて 電気式やで。 ねじ式のやつは うっかり巻き過ぎたら 壊れてまうよってな。 あ そんで いつぞや 周防さんに 直してもうた事 あったな。 フフフッ あれも 恥ずかしかったなあ。 何で? うち… 何を間違えたん?」
周防「何も間違っとらんよ。」
糸子「周防さん…。 ほんまは… 自分の店なんか 持ちたなかったん?」
周防「うんにゃ…。 夢やったばい。 長崎に おった時から ずっと。」
<うちは 初めて 自分の看板を見上げた時 ごっつい うれしかった。 ごっつい ごっつい うれしかった 何が ちゃうんやろな?>
糸子「ごめんな 周防さん。」
周防「うん? うち 周防さんの夢 かなえたんやのうて 取ってしもたんやな。 そら 自分やのうて 女の金で 看板 あげてもうたかて 何も うれしないわな? 何や はよ言うてよ 周防さん。」
周防「い~や… でも ありがとう 糸子さん。」
糸子「うちは…。 周防さんを… ほんまに幸せには でけへんのやな。」
周防「おいも…。 おいも そうたい。」
周防「フフフフッ 長崎弁は 分かりにくかですか?」
糸子「う~ん…。」
周防「まだ?」
糸子「初めの頃は 難しかったけどな。」
周防「そうね。」
糸子「今は ちょっと分かんで。」
<その夜 うちは 生まれて初めて 無断外泊ちゅうのを しました>
(小鳥の鳴き声)
糸子「ほな 月々2,000円の返済 ちゅう事で。」
周防「はい。」