連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第108話「2003-2025」【最終週】

偕行社

会場

「椅子も しっかりとね。」

「はい!」

控え室

ひなた「桃。」

桃太郎「お姉ちゃん。」

ひなた「どないしたん?」

桃太郎「ずっと あんな感じなんや。 お父ちゃんもトミーさんも どっか行って いいひんし。」

ひなた「フッ さすが いっちゃんのおばちゃん 分かってるわあ。 お母ちゃん。 これ お母ちゃんが緊張してるやろからて いっちゃんのおばちゃんから 持たされたんや。」

るい「ええっ 一子さん 来はらへんの?」

ひなた「お弟子さんらのお稽古の日やねんて。 お父ちゃんらの出番には 間に合うように来る言うたはったわ。」

るい「そうなん…。」

ひなた「うん。 ポットのお湯しかあらへんけど 飲む?」

るい「今はええわ。 どっちかいうたら お酒でも飲みたいわ。」

桃太郎「酒の力借りて歌おうとしんとき。」

錠一郎「るい。」

るい「何?」

(足音)

和子「るいちゃん。」

るい「あ… おばさん…。」

和子「るいちゃん。 るいちゃん。 久しぶり。 るいちゃん。」

るい「何で?」

錠一郎「僕が招待したんや。 アメリカのお母さんのために歌う時に 大阪のお母さんがいてたら 心強いかなあ思うて。」

和子「ありがとうねえ。 新幹線の切符から何から。」

錠一郎「ひなた。 桃太郎。 お母ちゃんが昔働いてた クリーニング屋のおかみさんや。」

和子「ひなたちゃん 大きなって。 こっちは桃太郎君?」

桃太郎「はい。」

和子「年賀状の写真どおり 男前や。」

錠一郎「ひなたが3つくらいまでは 行き来してたんやで。」

ひなた「へえ~。」

和子「うちの人が 体 悪うしてしもてなあ。 店たたんで里へ帰ったんや。 それが遠いもんやさかい。」

るい「おばさん。 おじさんのお加減は?」

和子「うん…。もう遠出は難しいてなあ…。 せやけど 今日のこと言うたら そらもう喜んで。 うん。 そないなるやろ言うてな。 これ。 これ。」

(泣き声)

和子「アッハッハッハッ これ これ。 涙。」

錠一郎「泣くとは思うたけど そんな泣かんでも…。」

トミー「ジョー。」

錠一郎「えっ? 木暮さん…! 木暮さん…。」

(すすり泣き)

錠一郎「元気そうやなあ ジョー。」

(泣き声)

トミー「フッ お前の方が泣いてるやないか。」

(泣き声)

錠一郎「木暮さん…。」

桃太郎「この人は お父ちゃんの懐かしい人?」

トミー「そや。 大阪で 俺もジョーも世話になった。」

桃太郎「へえ~。 ジョーの復帰を 誰よりも喜んでくれてたけど 何せ あの年や。 今までステージには よう来んかった。」

ひなた「ほな 何で こないな遠い会場のライブに 来てくれはったん?」

トミー「付き人に手伝わせて連れきた。 今日の演奏は 特別になるから。」

ラジオ局

「どうも。 アニー・ヒラカワさん。 ようこそおいでいただきました。」

「Welcome, Ms. Annie Hirakawa.」

「どうぞ こちらに。」

偕行社

会場

勇「そうじゃったんか。 兄さんが 中学の頃から通うとった喫茶店の。」

健一「ええ。 稔さんは よう言ようられました。 家じゃあ 弟が邪魔ばあするけえ 勉強ができんて。」

勇「はあ…。」

健一「ああ じゃけど 野球がでえれえ強えんじゃいうて そりゃあ もう得意がっとった。 ハッハッハッ。 稔さんは ジャズう好みょったけど 勇さんは?」

勇「からっきしじゃ。」

健一「じゃろうな。 ハッハッハッハッハッ。」

勇「じゃけど 近頃 錠一郎君らのCDは聴きょおるで。」

健一「ほう。」

勇「それで わしゃあ 発見したんじゃ。」

健一「何をです?」

勇「ジャズは 野球じゃ。」

健一「ジャズが野球?」

勇「野球選手は 試合の半分は動かずにベンチにおろう。」

健一「ああ 言われてみりゃあ そうじゃ。 珍しいスポーツじゃのう。」

勇「じゃけどな ありゃあ休みょんじゃねえ。 バッターボックスに立つ仲間を見守って 相手の出方を 試合の展開を先読みしょうるんじゃ。 ジャズの楽器と楽器の駆け引き そこからの想像を超える展開。 ありゃあ 野球の間じゃ 息じゃ。」

健一「そりゃあ また 初めて聞く理論じゃのう。」

(笑い声)

桃太郎「あっ ありがとうございます。」

健一「あっ…。」

桃太郎「大阪のクリーニング屋さんの 和子さんです。」

和子「竹村です。」

控え室

ひなた「ちょっとラジオつけます。」

♬~(ラジオ)

(ドアの開閉音)

ひなた「桃。 大丈夫やった? 勇大叔父さんらと一緒の席で。」

桃太郎「何や みんな 好き勝手に ジャズと野球とコーヒーと洗濯の話 してはったけど なぜか盛り上がってたわ。」

ひなた「そうか。 何か通じ合うもんがあるんかな。 フフフッ。」

桃太郎「なあ お姉ちゃん。」

ひなた「うん?」

桃太郎「『サムライ・ベースボール』の前売り券 欲しいんやけど。」

ひなた「ええよ。 何枚いる?」

桃太郎「1枚でええよ。」

ひなた「ええ~。 彼女と行ったらええやん。」

桃太郎「いてへんわ そんなん。」

ひなた「情けない。」

桃太郎「いや お姉ちゃんに言われたないわ。」

ひなた「フフッ。」

ラジオ・磯村『さて 皆さん。 お待ちかね 映画のコーナーです。 今日 取り上げますのはね 公開が間近に迫りましたハリウッドの大作『サムライ・ベースボール』です。 モモケンこと 桃山剣之介をはじめとした 日本人の俳優の起用が 大きな話題となっております。」

ラジオ・磯村『今日は なんと この配役に 大きく関わりをお持ちいただいた ハリウッドのキャスティングディレクター アニー・ヒラカワさんに スタジオにお越しいただいております。 ウェルカム』。

ラジオ・アニー『Hello. It’s nice to meet you.』

ひなた「アニーさん…。」

通訳『こんにちは どうぞよろしく お願いします』。

磯村『こちらこそ。 よろしくお願いします』。

通訳『It’s nice to meet you too.』

磯村『アニーさんは 1925年 シアトルで生まれた日系アメリカ人…』。

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