ひさ「ううっ…。」
道中
<千吉は 12月の出征前には 稔の縁談をまとめようと 頻繁に大東亜銀行の頭取に 面会していました>
ラジオ『行く学徒 東京帝国大学以下77校 ○○名 これを送る学徒 96校 実に5万名。 今 大東亜決戦にあたり…』。
雉真家
(ノック)
千吉「どうぞ。 勇。 どねんしたんなら。」
(ラジオを切る)
勇「父さん。 兄さんの祝言は 取りやめにしてください。 兄さんと あんこの… たちばなの娘の結婚を 認めてやってください。」
千吉「何じゃあと?」
勇「あんこは わしの幼なじみなんじゃ。 2人は 今も思い合うとんじゃ。」
千吉「結婚は 家同士でするもんじゃ。 当人の気持ちばかりじゃ決めれん。」
勇「そりゃあ… わしがするから。 家のための結婚は わしがするから。 しゃあからお願えじゃあ 父さん。」
千吉「勇…。」
勇「 せめて あんこに会うたげてよ。 会やあ分かるから!」
千吉「菓子屋の娘じゃあ どねんしょうもねえ。 今 進みょおる縁談は 雉真のため ひいては お国のためになるんじゃ。」
勇「はあ… じゃけど… 父さんは どねん思ようるん。 父さんの工場で作る軍服を着て 兄さんが戦争に行くことを どねえ感じとるん。」
千吉「おんなじことじゃ。 稔が 雉真の学生服着て 大学へ行くんも 雉真の軍服着て 戦地に赴くんも わしのとっては 誇らしいせがれの… 晴れ姿じゃ。」