雉真家
寝室
(産声)
「あ~ はい。 はい。 おめでとうございます。 よう頑張られましたねえ。」
「ホンマに。」
(泣き声)
美都里「生まれたん? あ~。 男の子? おなごの子?」
安子「おなごの子です。」
美都里「あ~ かうぇえらしいねえ。」
タミ「こちらです。」
勇「お~。」
千吉「あ~。」
勇「わあ~ 小せえのう!」
美都里「当たり前じゃろ 生まれたばあなんじゃから。」
千吉「あ~ おなごの子か。 次は男の子が欲しいのう。」
勇「父さん 今 そねんこと言わあでも よかろうが。」
千吉「おお すまん。」
安子「フフッ お義父様も抱いてやってください。」
千吉「えっ? お~。 いやいや 怖いのう。 よいしょ。」
勇「優しくじゃ。」
千吉「ごめん…。 あ… お~ かうぇえ子じゃあ。」
美都里「稔に よう似とる。」
千吉「うんうん。 名前ぉ決めにゃあおえんなあ。」
安子「あっ 名前は 稔さんが決めていかれました。」
千吉「そうなんか?」
勇「男か おなごかも分からんのに?」
安子「どちらでも通用する名前じゃそうです。 私も まだ知らんのんじゃけど…。 ここに。」
勇「義姉さんが開きゃあええが。」
千吉「わっ。 うん?」
安子「るい…。」
美都里「るい?」
千吉「るい? 何じゃ 珍奇な名前じゃのう。」
回想
(『On the Sunny Side of the Street』)
稔「『Louis Armstron g 「On the Sunny Side of the Street」』.
回想終了
安子「るい。」
千吉「ほっ ほっ あ~ お母さんじゃ ほら ほら ほら。」
勇「分かった。 野球の塁じゃ。」
千吉「えっ?」
勇「一塁 二塁 三塁 本塁の塁じゃ。 はあ~。」
千吉「何で そねえなもん 我が子の名前にするんなら。」
勇「ええ名前じゃが。 塁は 攻撃側にも守備側にも 一番大事なもんじゃ。 みんなで るいを守るんじゃ。」
美都里「ええじゃないですか。 稔が付けた名前じゃったらね。」
回想
稔「どこの国とも自由に行き来できる。 どこの国でも音楽でも自由に聴ける。 僕らの子供にゃあ そんな世界を生きてほしい。 ひなたの道を歩いてほしい。」
回想終了
<稔が るいと名付けた本当の思いを 安子だけは分かっていました。 しかし それは 決して口に出してはいけないことでした>