雉真家
ダイニング
安子「おかげさまで たちばな再建の見通しが立ちました。 それで…。 この機会に この家を出てえと思ようります。 長えこと お義父様のご厚意に甘えすぎとりました。 申し訳ありません。」
千吉「そうか…。 そういうことか。 それが あんたの出した答えじゃったら 止みゃあせん。 じゃけど そりゃあ もう るいたあ暮らせんいうことじゃ。」
安子「るいは 私の子です。 決して離れません!」
千吉「そねえ言うて 赤ん坊のるいを あんたに任せた結果 どねえなった?」
回想
(クラクション)
(衝突音)
(泣き声)
安子「るい! るい!」
(泣き声)
回想終了
千吉「実は こねえだ 大阪の医者に るいを診てもろうた。」
安子「えっ。」
千吉「おでこの傷を どねえかできんか思うてな。」
安子「それで?」
千吉「技術はあるそうじゃ。 傷を切っては縫い合わせるいう処置を 繰り返すことで 目立たんようにいていくこたあ できるらしい。」
安子「たちばなの資金とは別に るいの治療費は 蓄えてあります。 それを…。」
千吉「おはぎの小商いで 賄える額じゃねえ。 途方もねえ金がかかることじゃ。 雉真繊維の力がなかったら 治してやれん。」
千吉「それでも… るいを連れて この家を出る言んか。 本当に それが るいのためじゃ思よんか。 雉真の子として生きていく。 それが るいにとっては一番えんじゃ。」