道中
稔「おはよう。」
「おはよう!」
稔『安子ちゃん。 だんだん秋が深まってきたね。 コスモスが風に揺れ 大学までのあぜ道を優しく彩っています』。
橘家
安子『稔さん。 小豆の収穫の季節です。 毎年 取れたての小豆で おばあちゃんが お汁粉を作ってくれます』。
居間
杵太郎「う~ん! あ~ うちの… うめえ! ハッハッハッハッ!」
小しず「お義母さん おいしいなあ。」
安子「おばあちゃん これ お代わりあるん? ある?」
ひさ「あるよ。」
安子「やった~! 早く食べよ。」
安子『お店のお菓子に負けない おいしさです』。
河原
稔『安子ちゃん。 住吉の浜から木枯らしが吹き上げ 潮の香りをかすかに感じます。 大和川に来ると心が落ち着くのは 旭川の景色に似ているからかな』。
稔『安子ちゃんと 自転車の練習をした夏が 懐かしく思い出されます』。
橘家
安子の部屋
小しず「安子。」
安子「はい。」
小しず「おじいちゃんのたばこ買うてきてくれる?」
安子「は~い。」
小しず「雉真 稔さんいう人からのお手紙?」
安子「うん。」
小しず「雉真さんいうなあ あの雉真繊維の?」
安子「うん。 ほら 雉真 勇ちゃんのお兄さん。 大阪の大学予科に通よんじゃ。 心配せんでええよ。 おかしな おつきあいじゃねえから。 行ってきま~す。」
たばこ屋
安子「こんにちは。 おじいちゃんのたばこ ちょうでえ。」
「はいはい。 え~っと 杵太郎さんは チェリーじゃね。」
安子「はい。」
「はいはい。」
安子「ありがとう。」
「はい。」
映画館
稔『正月には帰省します。 よかったら 一緒に映画でも見に行きませんか? 桃山剣之介の新作が かかるそうです』。
勇「何ゅう ニヤニヤしょんなら。」
安子「わっ 勇ちゃん。 何も…。」
勇「手芸用品は どこで売りよんじゃ。」
安子「手芸?」
勇「おう。」
安子「そこの小間物屋さんじゃけど…。」
勇「おう そうか。」
安子「編み物でもするんかな?」
勇「そねえなわけなかろう。 ボールの修繕じゃあ。 野球は アメリかのスポーツじゃからな。 新しいバットも ボールも グローブも 手に入りにくうなりょんじゃあ。」
安子「そう…。」
勇「じゃけど 来年こそは 甲子園行くで。」