轟「おい お前。 お前や! さっきの死体役。」
五十嵐「はい!」
轟「『毎回毎回 おんなじ展開。 おんなじセットで おんなじ場所で おんなじことが起きて おんなじクライマックス迎えて 大立ち回りで拍手喝采』。」
回想
五十嵐「同じ場所で 同じことが起きて 同じクライマックス迎えて。 大立ち回りで拍手喝采。」
回想終了
轟「それがテレビ時代劇。 あほしか喜ばへんマンネリ! ホンマに死体にしたろか! …っちゅうのは冗談や。 大部屋の新入りなんぞが あんまり生意気なことを言うてたら 二度と使わへんで。」
五十嵐「すいませんでした!」
轟「あっ。 虚無さん。 こいつ 面倒見たってや。 なっ? コンテストで斬られてたん お前やな?」
回想
ひなた「たあ!」
五十嵐「うおっ! ぐわあっ!」
回想終了
轟「アドリブにしては 悪なかった。 稽古してへんかったら ああはできひんぞ。 うん。」
大月家
回転焼き屋・大月
ひなた「お父ちゃん 見て見て! すみれさんのサイン!」
錠一郎「すみれさん?」
ひなた「おゆみちゃんや! 『黍之丞』に出てた。」
錠一郎「あ~! あの お茶屋の看板娘か。」
ひなた「そうや!」
錠一郎「えっ すごいな。 これ 台本か?」
ひなた「うん。 『破天荒将軍』の。」
錠一郎「破天荒やなあ。」
ひなた「色紙も買うてたんやけどな。」
錠一郎「ああ… いやいや いやいや。 そら もう こっちの方が価値あるわ。」
るい「ああ おいでやす。」
五十嵐「こんにちは。」
るい「熱々1つやね?」
五十嵐「はい。」
るい「すぐ焼くわ。 そっち座って ひなたと話でもしといて。」
ひなた 五十嵐「えっ。」
るい「お友達でしょ?」
ひなた「友達なんかや…。」
五十嵐「友達なんかじゃ…。」
錠一郎「あっ そうなん? ああ 入り入り。」
五十嵐「いや 本当に。」
るい「焼けるまで ちょっとかかるから。 入って。」
錠一郎「ほら ほら ほら。 どうぞ どうぞ。」
ひなた「何なん? 2日続けて。」
錠一郎「俺の勝手だろ。」
ひなた「まあ そうやけど…。」
錠一郎「はい どうぞ。」
ひなた「稽古やったんや。 ただ寝転がってたんやなくて。 ごめん。 何も知らんと。」
五十嵐「今日の仕事は まだマシな方だ。 スタジオだからな。 この季節に 外で辻斬り死体の役 やらされてみろ。 地獄だぞ。 汗かくなって どなられるんだから。 最悪なのは 真冬の土左衛門役だ。 本当に このまま死んだ方がマシだと思った。 真冬の土左衛門になった日…。」