虚無蔵「うわあっ!」
回想
団五郎「当てつけとしか 思えません。 私を拒否して 無名の大部屋と共演するなんて…。 そんなに許せないでしょうか? 映画を離れて テレビに飛び込んだ私のことを。」
サンタ「そうかもしれんのう…。 じゃあけどのう ダンゴちゃん。」
団五郎「ダンゴちゃんって…。」
サンタ「親父っちゅうんは 一筋縄ではいかんもんじゃ。」
団五郎「えっ? 許しとるようで 許しとらん。 許しとらんようで 許しとる。 親父さんは あんたに 黍之丞をやってもれえてんじゃねえか? 敵役の左近じゃのうて。」
回想終了
虚無蔵「え~い!」
剣之介「やっ!」
虚無蔵「があ~!」
畑野「(小声で)監督。」
轟「あん? あ… カット!」
剣之介「はあ…。 これが…。 父が見た景色なんですね。 20年前に。 だけどね 虚無さん。 あんたじゃ 駄目なんだ。」
虚無蔵「わしが無名やからか。」
剣之介「そうじゃない。」
虚無蔵「せりふが下手やからか。」
剣之介「そうじゃない。 虚無さん。 私は 私の左近を探しに来たんです。 父が あんたという左近を見つけたように。 あんたに頼ったんじゃ 父を超えられない。」
虚無蔵「ありがとうございました。 文四郎とも… 手合わせしてやってください。 拙者 これにて。」
剣之介「あっ 虚無さん。 あんた 思ってるでしょう。 父が あんたを抜てきしたのは 私への当てつけだったと。 父は言ってました。 伴 虚無蔵は 桃山団五郎より ずっといい役者だと。 父は 役者として あんたに一目置いてたんです。」
虚無蔵「それは… ホンマですか? 何で… 何で もっと早うに 言うてくれへんかったんですか。 わし… 20年 思い詰めてましたがな。」
剣之介「何でって? 私はスターですよ。 大部屋なんぞに軽々しく声はかけません。」
虚無蔵「恐れ入りました。」
畑野「本日のオーディションは以上です! お疲れさまでした。」