<八海サマ>
凛「あっ 八海さ~ん!」
八海「おお…。」
<い… 五十嵐 凛!>
凛「さっきのシーン 最高だったよ!」
八海「いや そちらこそ。」
<まさか 恋愛スキャンダル?>
凛「待って。 汗臭い?」
八海「別に構わないですよ。」
凛「…って言うと思った!」
<お相手は 世界の映画界で輝く アジアの至宝 五十嵐 凛。 まさに 神と女神のハグ! と… 尊い>
凛「あっ こないだ楽しかったです らすべがす!」
八海「はい それはよかったです。」
<らすべがす…>
(2人の笑い声)
(時計の箱が落ちる音)
ミワ「あっ! あの… お届け物です。 すみません 腕時計。」
八海「ああ ありがとうございます。」
ミワ「それじゃ 失礼します。 お邪魔しました。」
八海「あっ ミワさん…。」
<私は逃げるように その場から走り去った>
<八海サマに この さもしくて おこがましい胸の内を 悟られたくなかったから>
<は? 八海サマに対して ただのオタクが こんな失恋みたいな感情… おこがましい!>
越乃「大丈夫?」
ミワ「え…。」
越乃「おいしいお菓子があるんだけど 楽屋に来ない?」
ミワ「越乃さん…。」
越乃「どうぞ~。」
ミワ「お邪魔します。」
越乃「適当に座ってね。 はい 亀千のどら焼き。 これがあるとテンション上がるのよね。」
ミワ「ありがとうございます。」
越乃「はっちゃんとこのお手伝いさんでしょ? 前にロケにも来てたもんね。」
ミワ「覚えて下さってたんですか。」
越乃「映画に すごい詳しいんだって? はっちゃんがね いつも すご~いうれしそうに話すのよね。」
ミワ「いえ そんな 恐縮です。」
越乃「ふふふふ…。 あれはさ 何か よく分かんない 感情だったんじゃない?」
ミワ「え…?」
越乃「私も若い頃からさ 次から次へと いろんな役 演じるでしょ。 そうすると ホントの自分の感情が 分かんなくなるっていう時があるのよね。」
ミワ「そうなんですか…。」
越乃「そう。 泣きたいのに笑ったり 怒りたいのに我慢したり。 自分を偽って いろいろ無理してたんじゃないかと思う。」
ミワ「自分を… 偽る。」
越乃「あなた見てたらさ 若い頃の自分 思い出しちゃって。 的外れだったら ごめんね。」
ミワ「いや… そのとおりだと思います。」
<でも こんなすてきな女優さんとは 次元が違う。 私は ただのなりすまし。 欲望に負けた あさましき罪人。 それが苦しみを招いたとしても 当然の報い…>
(ノック)
越乃「はい。」
「失礼します。 越乃さん スタジオにお願いします。」
越乃「は~い 行きま~す。」
ミワ「すいません お邪魔してしまって。」
越乃「ううん。 あっ。 はい。 もし ホントの自分にウソついてるようなことが あるんだったら 正直になったほうがいいよ。 はっちゃんも きっと ホントのあなたを知りたいはずだから。」
ミワ「ホントの私…。」
越乃「あっ。 私はカメラの前で ウソついてくるね。」
「あの…。」
ミワ「あっ すいません。 お邪魔しました 失礼します。 これ 頂きます。」
「はい どうぞ。」