夜ドラ「ミワさんなりすます」(第15回)

<八海サマ>

凛「あっ 八海さ~ん!」

八海「おお…。」

<い… 五十嵐 凛!>

凛「さっきのシーン 最高だったよ!」

八海「いや そちらこそ。」

<まさか 恋愛スキャンダル?>

凛「待って。 汗臭い?」

八海「別に構わないですよ。」

凛「…って言うと思った!」

<お相手は 世界の映画界で輝く アジアの至宝 五十嵐 凛。 まさに 神と女神のハグ! と… 尊い>

凛「あっ こないだ楽しかったです らすべがす!」

八海「はい それはよかったです。」

<らすべがす…>

(2人の笑い声)

(時計の箱が落ちる音)

ミワ「あっ! あの… お届け物です。 すみません 腕時計。」

八海「ああ ありがとうございます。」

ミワ「それじゃ 失礼します。 お邪魔しました。」

八海「あっ ミワさん…。」

<私は逃げるように その場から走り去った>

<八海サマに この さもしくて おこがましい胸の内を 悟られたくなかったから>

<は? 八海サマに対して ただのオタクが こんな失恋みたいな感情… おこがましい!>

越乃「大丈夫?」

ミワ「え…。」

越乃「おいしいお菓子があるんだけど 楽屋に来ない?」

ミワ「越乃さん…。」

越乃「どうぞ~。」

ミワ「お邪魔します。」

越乃「適当に座ってね。 はい 亀千のどら焼き。 これがあるとテンション上がるのよね。」

ミワ「ありがとうございます。」

越乃「はっちゃんとこのお手伝いさんでしょ? 前にロケにも来てたもんね。」

ミワ「覚えて下さってたんですか。」

越乃「映画に すごい詳しいんだって? はっちゃんがね いつも すご~いうれしそうに話すのよね。」

ミワ「いえ そんな 恐縮です。」

越乃「ふふふふ…。 あれはさ 何か よく分かんない 感情だったんじゃない?」

ミワ「え…?」

越乃「私も若い頃からさ 次から次へと いろんな役 演じるでしょ。 そうすると ホントの自分の感情が 分かんなくなるっていう時があるのよね。」

ミワ「そうなんですか…。」

越乃「そう。 泣きたいのに笑ったり 怒りたいのに我慢したり。 自分を偽って いろいろ無理してたんじゃないかと思う。」

ミワ「自分を… 偽る。」

越乃「あなた見てたらさ 若い頃の自分 思い出しちゃって。 的外れだったら ごめんね。」

ミワ「いや… そのとおりだと思います。」

<でも こんなすてきな女優さんとは 次元が違う。 私は ただのなりすまし。 欲望に負けた あさましき罪人。 それが苦しみを招いたとしても 当然の報い…>

(ノック)

越乃「はい。」

「失礼します。 越乃さん スタジオにお願いします。」

越乃「は~い 行きま~す。」

ミワ「すいません お邪魔してしまって。」

越乃「ううん。 あっ。 はい。 もし ホントの自分にウソついてるようなことが あるんだったら 正直になったほうがいいよ。 はっちゃんも きっと ホントのあなたを知りたいはずだから。」

ミワ「ホントの私…。」

越乃「あっ。 私はカメラの前で ウソついてくるね。」

「あの…。」

ミワ「あっ すいません。 お邪魔しました 失礼します。 これ 頂きます。」

「はい どうぞ。」

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