夜ドラ「ミワさんなりすます」(第5回)

<かくいう紀土くんも 私と出会った頃は プロの俳優を目指していた>

回想

紀土「あっ そうだ。 今度 シモキタで舞台やるからさ ミワちゃんも見に来てよ。 関係者も呼んでるし これが勝負だと思ってるから。 演出家の天沢さんが すっげえ…。」

<それから何回か見に行ったけど やがて紀土くんは 演劇のことを語らなくなり…>

紀土「俺 就職するわ。」

ミワ「え?」

紀土「役者は もう やりきったかな。 つ~か ずっとバイトやっていくわけには いかないじゃん。」

回想終了

ミワ「仕事は順調?」

紀土「まあ あんまり休みはないけどね。」

ミワ「そっか。 今日は飲み会の帰りって言ってたよね? 会社の人?」

紀土「いや ネットで知り合った連中なんだけど すっげえ盛り上がってさ。 今度 キャンプ行こうよってなった。」

ミワ「へえ~。」

紀土「ミワちゃんもさ 映画ばっか見てないで もっと外に出て いろんな人と出会って 人脈つくって 視野を広げていかないと。 一人で ずっと家に籠もってたら 寂しい老後を送るこになっちゃうよ。 あっ そういえばさ 昔 1回 一緒に映画見たことあったよね。 何だっけ? あっ ブルース・ウィルスが出てる。」

ミワ「『ダイ・ハード』。」

紀土「ああ そうそう そうそう。 あれさ 何かパッとしなかったよね。 いかにも大衆映画って感じでさ。」

<いや 超名作ですけど…>

ミワ「まあ 合わない人もいるよね。」

紀土「ミワちゃんって たくさん映画見てる割に ああいうベタベタな大作映画が 好きだったよね。 あれあれ あの~ 誰だっけ? うわ~ 名前出てこない。 あっ 八海 崇とかさ。」

ミワ「うん 好きだよ。」

紀土「最近 見なくない? 消えた?」

<いや あんたが知らないだけだよ>

紀土「まあ そもそも 若い子って映画見ないもんな。 2時間も耐えられないじゃん。」

<んなことないって>

紀土「八海 崇もさ オワコンだよな。」

紀土「えっ どうした?」

ミワ「帰る。」

紀土「何 ごめん。 もしかして まだ好きだった? 八海 崇。」

ミワ「それじゃ。」

紀土「ちょちょ… ちょっと待てって。 まだいいだろ? 7時だぞ。」

ミワ「そういえば 引っ掛かってたんだけど まだ7時だよね。 ネットの人たちとの飲み会 終わるの早くない? ホントに盛り上がってた?」

紀土「え?」」

ミワ「あなたの話がつまんなくて みんな帰っちゃったんじゃないの? あとね ブルース・ウィルスじゃなくて ブルース・ウィリスだから!」

(戸の開閉音)

ミワ宅

<無意識に ニンジンを花の形に切っていた。 私だけしか食べないのに ただの自己満足。 これも紀土くんに言わせれば 無駄で 非生産的な行動なのだろう>

<私も 紀土くんのように 合理的な生き方を選んでいれば もっとマシな人生を贈れたかもしれない>

<八海 崇との交流は なりすましの産物。 こんなことを続けて 一体 何になるというのか>

<いい年して 何をしてるんだろ…>

<もう映画を捨てよう。 思いを断ち切ろう!>

(荒い息遣い)

<学生の頃から ずっと書いてはためらい 出せなかったファンレター。 言いたいことも言えず 将来のことも考えないまま 世間から邪魔者扱いされてきた 私の人生。 でも あの方だけは 分かってくれた>

回想

八海「秘すれば花… というような美徳です。」

回想終了

(泣き声)

八海邸

園庭

<そして 私はまた ここに戻ってきてしまった>

八海「おはようございます。」

ミワ「おはようございます。 咲きましたね。」

八海「ええ。 毎年楽しみにしてるんですよ。」

ミワ「きれいです。」

八海「うん。 クチナシの香り… 思い出がよみがえります。」

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