とよ「アッハハハハ…。」
雪次郎「ハハハ…。」
とよ「雪次郎! あんた 帰ってこれたんか!」
雪次郎「ただいま ばあちゃん。 あっ 父さん ただいま。」
雪之助「正月帰るんだら ちょっと早いんでねえか おい。」
妙子「あんた。」
雪次郎「クリスマスに 間に合うようにと思ってな。 父さん クリスマスケーキ作るべ!」
雪之助「ん?」
とよ「うん?」
雪之助「何だ? お前。」
とよ「どしたの?」
雪次郎「うん…。」
妙子「雪次郎…!」
雪次郎「父さん 言ったべや。 諦める時は 潔く諦めれって。」
雪之助「諦めたのか?」
とよ「そ… その芝居で失敗したのか? セリフ忘れたのかい?」
妙子「そんなことで…。」
雪次郎「そったらことでねえ! もう 悔いはねえんだ。 だから決めたのさ。 俺は 菓子屋に戻る。」
雪之助「バカでねえか! そったら中途半端なことで 菓子屋になれっか!」
雪次郎「だったら 父さん… 俺を鍛えてくれ! 中途半端な菓子屋として 人間として 俺を鍛え直してくれ。 頼む…。 父さんのもとで もう一度やってみたくなったんだわ…。」
雪之助「本気か?」
雪次郎「本気だ。」
雪之助「逃げてきたわけでねえんだな?」
雪次郎「逃げてねえ…。 捨ててきた。」
妙子「雪次郎…。」
山田家
馬小屋
(戸の開閉音)
天陽「うん どうした? もう搾乳の時間か?」
雪次郎「相変わらず やってんな。」
天陽「雪次郎!」
雪次郎「久しぶりだな 天陽。」
天陽「帰ってきたんかい。」
雪次郎「おう… もう ずっとな。」
天陽「ずっと?」
雪次郎「おう。 これからは ずっと こっちさ。 喜べ。」
天陽「別に うれしかねえわ。」
雪次郎「相変わらず冷めてんな。」
天陽「あっ しばれたべ? 何か 持ってくっか…。」
雪次郎「あ いい…。 後で お前の嫁さんに挨拶するべ。」
天陽「おう。 そうしてくれ。」
雪次郎「倉田先生にも 挨拶に行かねばな…。」
天陽「ああ そりゃ喜ぶべな。 あ… よっちゃんや番長も呼んで 一緒に酒飲むべ。」
雪次郎「うん。」
天陽「みんな お前に会いたがってるぞ。」
雪次郎「あっ お前 なっちゃんのテレビ見たか?」
天陽「ああ 兄貴から聞いたけど テレビなんて買えんからな。」
雪次郎「欲しくもないんだべさ。 あ… 俺も テレビに出てたんだ。」
天陽「ああ 声だけな。」
雪次郎「それは知ってんのかい。」
天陽「なっちゃんも相変わらずやってんだな。」
雪次郎「うん。 なっちゃんは相変わらずだ。 どんどん 先行くぞ。 脇目も振らずって感じだな。 俺は 結局 なっちゃんには追いつけもせんかった。」
天陽「競争じゃないべ 生きるのは。」
雪次郎「そだな…。」
天陽「お帰り 雪次郎。」
雪次郎「ただいま 天陽。」
天陽「何だ お前。」