東洋動画スタジオ
(ノック)
なつ「失礼します。 奥原なつです。 よろしくお願いします。」
山川「どうぞ お掛け下さい。」
なつ「はい。 失礼します。」
大杉「アータ ご両親は ご健在かね?」
なつ「はい。 本当の両親は 戦争で亡くしました。 だけど 9つから 私を育ててくれた両親は 北海道にいます。」
山川「いわゆる 君は 戦災孤児だということですか?」
なつ「はい…。」
山川「それじゃあ 東京には 身寄りがないんですか?」
なつ「兄がおります。 9つの時から 別々で暮らしていた兄が 今は 近くにいてくれます。」
大杉「兄? 奥原…? 奥原なつさんね…。」
なつ「はい…。」
山川「農業高校を出てるようだけど 絵の勉強は どこかでされたんですか?」
なつ「いえ… 絵のうまい友達から 教わったぐらいです。」
山川「農業高校の友達ですか?」
なつ「いえ… その人は 一人で 土を耕し 牛飼いをしながら 自分の絵を描いています。 道は違っても 私の目標とする人です。」
大杉「アータの絵は 実に面白いね。 こんなに高く跳ぶ馬を 初めて見たよ。」
なつ「ありがとうございます。 社長の宣伝も すごい面白かったです! あっ あの 帯広の映画館で見ました。 あんなの 初めて見ました。」
大杉「あんなの?」
なつ「あ… いや…。 すいません つい余計なことを…。」
大杉「結構ですよ。」
なつ「あっ… ありがとうございます。」
大杉「もう結構です。」
なつ「はい。 失礼します。 あっ 失礼しました。」
なつ「(ため息)」
川村屋
ホール
野上「いらっしゃいませ…。」
なつ「ただいま戻りました。」
野上「何ですか お店の方から。」
なつ「すいません 報告だけ。 終わりました。」
野上「人生が終わったみたいですね。」
なつ「えっ どうして そう思うんですか?」
光子「終わったの?」
なつ「いえ まだ 終わったと 決まったわけじゃありません!」
光子「えっ?」
なつ「あっ… 試験は終わりました。 ありがとうございました。」
光子「受かりそうなの?」
なつ「さあ 分かんないです。 とにかく すごい人数なんです。」
光子「それは 大きな会社だもの。 漫画映画を知らなくても 東洋を知らない人は いないものね。」
野上「そこに 絵を描くだけで入れるんなら 怠け者が殺到しますでしょう。」
なつ「野上さん 一度 漫画映画を見て下さい。 怠け者には 絶対作れませんから。」
野上「結構です。」
なつ「あっ 嫌な言い方…。」
野上「は?」