おでん屋・風車
2階なつの部屋
咲太郎「なつ。」
なつ「うん?」
咲太郎「この箱 どうする?」
なつ「あ~ それは 押し入れにお願い。」
咲太郎「おう。 よし…。」
1階店舗
なつ「天ぷら? 天ぷら作れるの?」
咲太郎「天ぷらじゃない。 天丼だ。」
なつ「ああ… 昔 料理人だった お父さんが作ってくれた 天丼が食べたいって言ってたもんね。」
咲太郎「その味が忘れられなくて どこの店で 天丼食べてもダメで こうなったら 自分で作った方が 早いんじゃないかと思ってな。」
佐知子「すっごい楽しみ!」
咲太郎「天ぷらというのは 結局 衣で決まるんだ。 いいネタを生かすも殺すも 衣なんだ。 粉は かき混ぜちゃダメだ。 こうやって 優しく溶くんだよ。」
雪次郎「修業したみたいですね。」
咲太郎「雪次郎 人生は 何事も修業だ。」
雪次郎「なるほど。」
なつ「料理人 目指せばいいじゃん お兄ちゃん。 昔 お父さんの店を 立て直すんだって言ってたんでしょ?」
亜矢美「そうなの?」
なつ「そうなんです 子どもの頃に。」
咲太郎「それが いつの間にか ムーランルージュの立て直しに 変っちゃったんだな 母ちゃんと出会って。」
亜矢美「私のせいにしないでよ。」
(戸が開く音)
信哉「こんばんは。」
咲太郎「おう 信!」
亜矢美「お~ いらっしゃい。」
なつ「信さん!」
信哉「なっちゃん。」
なつ「ん?」
信哉「就職おめでとう!」
なつ「え~! 忙しいのに ありがとう。 お花もらうなんて 初めてだわ。」
雪次郎「あっ こっち どうぞ。」
なつ「え~…。」
咲太郎「よし。 これで 昔の家族もそろったな。」
なつ「千遥がいないけど…。」
咲太郎「千遥のことは言うな。」
信哉「そういえば 親戚の移転先は探さないのか?」
咲太郎「探してどうするんだ。 幸せを壊すのか?」
(戸が開く音)
亜矢美「おっ カスミねえさん。」
カスミ「お店 お休み?」
亜矢美「今日はね なつさんの就職祝。」
カスミ「あら 就職? 川村屋 辞めちゃったの?」
なつ「はい。」
亜矢美「漫画映画を作る会社にね。 夢をかなえたのよ。 で 今日から ここで 一緒に暮らすの。」
カスミ「ここで?」
なつ「はい。」
カスミ「そう… そうしたんだ… おめでとう。」
なつ「あっ ありがとうございます。」
レミ子「カスミねえさん 私たち 呼ばれてませんよね!」
カスミ「うん そうね…。 仕事の前に 腹ごしらえしようと思ったんだけど…。」
亜矢美「あ… いいわよねね? 咲太郎 ねっ…。」
咲太郎「もちろんだよ。 レミ子 水くさいこと言うな。」
レミ子「どっちが水くさいのよ。」
咲太郎「カスミねえさん 俺の天丼 食べてって下さい。」
カスミ「それじゃ お言葉に甘えようかしら。」
亜矢美 なつ「どうぞ~!」