雪次郎「はい… 俺は 見ている間 ずっと 体が熱かったです。」
咲太郎「風邪でも ひいたのか?」
雪次郎「いえ… そういうんでなくて…。」
咲太郎「分かってるよ。 な いい芝居だろ?」
なつ「うん。 亀山蘭子さんって女優さんが 本当にすごかった。」
咲太郎「おう 紹介してやるよ。 せっかくだから会ってけ。」
なつ「えっ? い… いいの!?」
雪次郎「えっ えっ えっ…。」
なつ「えっ…。」
(ノック)
咲太郎「蘭子さん お疲れさまです。 ちょっと いいですか?」
蘭子「はい。」
咲太郎「蘭子さん 俺の妹なんです。」
なつ「あ…。 奥原なつです。」
蘭子「あれ 咲ちゃん 家族いた? 孤児院で育ったんじゃなかったっけ?」
咲太郎「育ってはいませんよ。 一時 いただけです。 その時 妹もいたんです。 それから すぐ バラバラになって 9年ぶりに再会して 今 一緒に暮らしてます。」
蘭子「まあ… 新派になりそうなお話ね。 どうでしたか? 舞台は。」
なつ「あ… いかったです! 何て言うか… 本当にすごかったです。」
咲太郎「よかったと すごかったしか言ってないぞ お前。」
なつ「いや ほかに言葉が浮かばなくて…。 あ… 絵に描きたいと思いました。」
蘭子「え?」
咲太郎「あ… なつは 漫画を描いてるんです。」
なつ「漫画映画です。 それに まだ描いてません。 あっ でも この感動は 絵には描けないかなとも思いました。 それくらい すごかったです。」
蘭子「何だか とても こんがらがった感想ね。 フフフフ…。」
なつ「すいません…。」
蘭子「でも ありがとう。 うれしいわ。」
なつ「こちらこそ。」
咲太郎「それから こいつは なつの友達で 北海道の農業高校で 演劇をやってたやつなんです。」
雪次郎「あ… 小畑雪次郎です!」
蘭子「演劇部だったの?」
雪次郎「はい。」
蘭子「へえ… どうでしたか?」
雪次郎「はい。 本物は… 普通なんだと思いました。」
蘭子「えっ?」
咲太郎「お前 何言ってんの?」
雪次郎「あっ 普通っていうのは 普通の人が まるで そこにいるみたいというか そういう アマチュア精神を感じるというか…。」
咲太郎「お前 失礼だろ!」
雪次郎「あっ いえ 普通の人が言いたい言葉を 代弁するというか 伝えるの力が プロなんだと思ったんです。 あの 別に スターとかじゃなくて 普通の人間だから 伝わる精神を持ってるのが なまら すんげえ俳優なんだと 思いました。 それが新劇なんだと思いました。」
咲太郎「すみません 蘭子さん こいつの感想も こんがらがってます。」
雪次郎「すいません…。」
蘭子「あなた 今 何をしてらっしゃるの?」
雪次郎「はい… 新宿の川村屋で お菓子作りの修業をしています。」
なつ「雪次郎君の家は 帯広で お菓子屋さんをしてるんです。 お菓子と おんなじくらい 雪次郎君は 本当に芝居が好きなんです。」
蘭子「そう…。 それで よく 芝居をやめられたわね。 今日は どうも ありがとうございました。」
なつ「ありがとうございました!」
咲太郎「お疲れさまでした!」
蘭子「お疲れさま。」
なつ「どしたの? 雪次郎君。」
雪次郎「いや…。」
<なつたちにとって この出会いも また 一つの運命かもしれません。>