連続テレビ小説「なつぞら」第92話「なつよ、恋の季節が来た」【第16週】

回想

坂場「その考え方は もう古いんじゃないでしょうか。」

仲「古い?」

下山「おい ちょっと イッキュウさん…。」

坂場「漫画映画は 子どもが見るものだと 決めつける考え方です。 これからの漫画映画は 大人のためにも作るべきだと思います。」

仲「僕は そうは思わない。 漫画映画は あくまで 子どものために作るべきだと思うよ。」

坂場「それじゃ その子どもが 大人になったらどうなりますか? 同じ漫画映画を見て 懐かしいと思うほかに 改めて面白いと感じることは あるでしょうか?」

仲「あると思うな。 子どもの時に 面白いと感じたのなら その感性は大人になっても 必ず残ってるはずだよ。 そうやって 夢や希望を残してやることが 漫画映画の使命なんじゃないかな。」

坂場「おもちゃとしての夢なら それでも いいでしょう。」

井戸原「おもちゃ?」

坂場「子どもの頃には分からなかったことが 大人になって 初めて分かることもある。 そういう漫画映画が生まれなければ 子どものおもちゃとして いずれは 廃れていくだけじゃないでしょうか。」

仲「廃れる…?」

坂場「僕は 漫画映画を ほかの映画と比べても遜色ないくらい いや それ以上に 作品としての質を高めていかなければ 未来は残らないと思うんです。」

仲「分かったよ 坂場君。 だけどね たとえ そこに どんな意味があろうと 純粋に 子どもが楽しめる漫画映画に してくれるんだろうね? それができなければ いくら高い理想を掲げたって つまらない漫画映画だと 言われるだけだよ。」

坂場「それは…。」

井戸原「それができなければ 君は失格だ。」

坂場「はい…。」

回想終了

下山「まあ でも つまらないものには したくないだろ。」

茜「えっ そのために 私たちが頑張るんですか? イッキュウさんを助けるためにですか?」

堀内「何だか やる気がうせるよな。」

下山「いや… イッキュウさんのためじゃないよ。 作品のためだ。 それに 僕は どうしても マコちゃんと なっちゃんに 原画で成功してほしんだ。 これは そのための短編映画なんだから。」

神地「おはようございま~す。 ん? あれっ どうかしたんですか?」

下山「遅刻だよ 少し。」

神地「すみません…。 でも 徹夜して これだけ 原画を描いてきたんです。 あっ 面白いかどうか 見てもらってもいいですか?」

茜「神のようなタイミング…。」

神地「えっ?」

中庭

なつ「どうして 仲さんに そんなこと言ったんですか?」

坂場「話の流れで つい言っただけです。 言うつもりではなかった。」

なつ「それじゃ 本気で言ったわけじゃない ということですか?」

坂場「いえ うそを言ったつもりもないです。」

なつ「仲さんの作る漫画映画が古いなんて よくも…。 どうして そんなことが言えるんですか!」

坂場「作るものではなくて 考え方が古いと言っただけです。」

なつ「同じじゃないですか!」

坂場「まあ… そうですね。」

なつ「は?」

坂場「あなたが怒るのは どうしてですか?」

なつ「えっ?」

坂場「仲さんを尊敬しているからですか?」

なつ「もちろんです。 そのとおりです。」

坂場「仲さんが描くものは すばらしいです。 面白いし かわいい。 子どもの心を捉えるし 大人が見ても かわいい。」

なつ「あなたにも かわいいと感じる心があるんですね。」

坂場「かわいいものは大好きです。」

なつ「真剣な顔で言わないで下さい。」

坂場「しかし 子どもは かわいいと感じるだけじゃない。 面白いと思うだけでもない。 もっと いろんな感情を 世界から受け取って生きているんです。」

なつ「それは もちろんです…。」

坂場「僕も 子どもの頃 空襲に遭いました。 焼け跡を 一人で 家族を捜して歩き回りました。 幸い 親も生きていましたが あの孤独と 飢え死にしそうな絶望感を 忘れることはありません。」

坂場「大人の冷たさを 子どもの卑しさを 嫌というほど見せつけられました。 でも 反対に 見知らぬ人の愛も 知ったんじゃないですか? そういう子どもの時の体験が 今や僕や あなたを作っているんです…。 違いますか?」

なつ「だから 何だと言うんですか?」

坂場「だから…。 仲さんたちとは違うものを作るのは 僕らの使命です。」

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