オハラ洋装店
<こんな時 店が忙しいちゅうんは ほんまに助かりました。 余計な事 考えんで済むよって>
糸子「また いつでも始められるように 道具なんかも きっちり手入れして しもうとくんやで。」
2人「はい。」
正一「こんにちは。」
勇「こんにちは。」
糸子「勇君 おっちゃん! いや~! あら~ え~?」
正一「勝君 出征やってな…。 おめでとう。」
糸子「来てくれたんか わざわざ。 おおきになあ。」
居間
糸子「せやけど 勇君 何年ぶりや?」
勇「糸ちゃんの結婚式以来やな。 あれ もう… 8年前か?」
糸子「いや~ そないなる? ハハハ へえ~。」
ハル「どこへいっちゃったんかいなあ? 何や あの外国の…。」
糸子「ああ セラ… セレ…。」
静子「セレビス!」
勇「セレベス島。」
静子 糸子「セレベス島や!」
ハル「へえ~ 何しに?」
勇「勤め先の貿易会社から 駐在員で 行っとったんですよ。 けど まあ こんなご時勢やから 会社が潰れしもうて。」
ハル「ほんで 今 お父ちゃんの会社 手伝うてんのかいな?」
勇「はい。」
正一「まあ うちも 軍服屋に なってしまいましたけどねえ。」
糸子「おじいちゃんら 元気にしてんの?」
正一「まあ… まあまあな…。 ああ やっぱり 勝君の事 聞いて お前の事 えらい心配しとったで。」
糸子「『大丈夫や』て 言うといてな。」
2階 座敷
(からすの鳴き声)
(バリカンの音)
居間
優子「ザラザラや~!」
勝「気持ち いいか?」
静子「直ちゃん。 ほら 直ちゃんも 触らしてもらい。」
<ことごろは 派手な出征祝い ちゅうのは 禁止されてるよって 家族と店の子らだけの 小さい会を やりました>
(一同の笑い声)